白い羽を身に纏い

輝く光のなかを降りてくるのは

漆黒の天使


その姿は美しく

悲しく

残酷で



神にまで見捨てられてしまった天使

それでも彼女は救いの手を差し伸べ続け

人々を光の下へと導き続けた


それなのに彼女はいつまでも漆黒で

決してその姿は純白へと戻ることはない


黒の色は罪の色

纏う羽は救ってきた人々

いくら純白を纏ってもその下は黒でしかないという残酷な事実









彼女は一人の男を愛してしまった

その男は身の内に黒を持ち

その手には銀と赤を持つ男だった

彼女はそれを知らずに愛してしまった

そしてそれを知ってからも彼へ向けられた心の扉は閉じることがなかった

わずかにあいた扉からじわじわと流れ込む











それはある日

わずかな一瞬

純白のその姿は赤く染まり

彼女の纏う羽は銀によって切り裂かれ暗い闇の中へと落ちていった

穏やかなその目は狂気にそまり

細いその指を赤が滴る





その日、再び目覚めた彼女は最後に自分を殺した

自分を貫く一瞬の銀の苦痛に赤が飛び散ってしまった白い美しい羽は強く一度羽ばたく

それでも彼女は飛ぶことも落ちることもない

あるのは終焉でも救いでもなく痛みだけ

傷口に触れるとそこは何事もなかったかのようで


彼女は何度も何度もその体に銀を突き立てた

その意識が痛みでなくなるまで何度も何度も

ほんの数秒間だけ流れ出すわずかな赤で海ができた

しばらく続いた鈍い音はやみ、彼女は赤の海に崩れ落ち

その純白で美しかったすべてを赤に沈めた





その身を赤く染めたことではなく

白い羽を闇へと堕としたことでもなく

自分を殺したことが彼女の罪だった

落ちていく羽から目をそらしたことが罪だった

赤い自分から逃げたことが罪だった

すべてから逃げようとしたことが罪だった





死というのは

価値も意味も恐れも救いもない

人々がその死にそれらのものを与えているだけ

ただそこにある死は

最大の恐怖とも最高の救いともなりうるもの

それは生も同じこと






そのときの彼女にとって

生は恐れで

痛みで

苦しみで

死は救いで

逃げ場所で

安らぎで

罪だった



彼女に課せられた罰

それは永遠の生だった






罰は罰でしかなく

それに浄罪としての価値を与えなければ

それはただただ苦しめる棘の鎖でしかない






彼女の生という罰にはその価値など一切与えられなかった





逃避は殺戮を罪にし、生を罰にした




彼女の黒



それはあまりに重すぎる黒



The deity was inhuman.




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