一日目 -はじまり-



夜中に細い路地を歩いていると街頭の下をひらひらと舞う蝶のようなそれを見つけた。
けれどもそれは蝶のように空高く舞い上がるのでもなく、美しい花に止まり羽を休めるのでもなく、色鮮やかなわけでもない。
そう。
力尽き堕ちていく死にかけた真っ黒の蝶のよう。

「その写真はあなたの未来。」

どこからともなく声が響く。

「あなたの未来は見てのとおり真っ黒。それはすべてが決まってしまい、終わってしまったから。」

「つまり俺が死ぬと言いたいのか?」

「そういうわけではありません。今は真っ黒だけれども、時の流れが変われば、その真っ黒な一瞬には何かほかのものが写るかもしれない。すべてを決めるのは あなた。そうですね、それでもさすがにそれ一枚じゃ足りないでしょう。未来から切り取られた一瞬を道しるべとして流れゆく記憶の中に差し上げましょう。で も、勘違いしないでください、その一瞬は通過点ではなくあくまで道しるべです。それと、それがいつどの瞬間なのかは秘密です。ただ、必ずその時のあなたか らのびる時の中のどれか一つの瞬間をあなたは見ます。」

「通過点ではなく道しるべ?俺からのびる時のどれか一つ?」

「そうですね。あなたが見る一瞬はこれからあなたが通る場所を示すのではなく向かっている方向を知るための目印、周りの景色のようなもの。風や音のような 兆候。あくまでそれがあるかもしれないという予感ということです。それについてはその写真も同じようなものです。しかし、だからといってその一瞬を軽く見 てはいけません。あなたが見るのは未来のほんの一瞬でも悠久の 時の流れは一瞬の積み重ね。その一瞬が、その過去から未来へとつなぐのです。」

「それでおまえは何をしたいんだ?」

「あなたはこのまま行った先にあるその最終地点とこれから見ていく道しるべとを見てこの先の歩みを進め、漆黒の結末から逃れてみてください。あなたの運命 から逃れる力を見せてください。」

「そんなものを見て楽しいのか?」

「そうですね。とても興味を惹かれます。迷路というのはとくのも楽しいですけど誰かがとくのを見てるのも楽しいものです。」

「かわってるな。ところで、急にこんな話をされて俺が信じると思うか?」

「それはあなた次第です。それではがんばってください。それと、その写真がいつのものかをお教えしましょう。」

声がだんだんと遠くへ行くのを感じる。
次第に語尾が小さくなってきている。
それでも最後の一言だけははっきりと聞こえた。

「一週間後、午後八時です。」





こんな写真が本当に未来を示しているのだろうか?
ベットの上に寝転がり天井にかざすようにして真っ黒な写真を見る。
こんなこと信じる価値があるのだろうか?
でもこの写真は空から降ってきた。
風が吹いていたのでもないし周りに誰かいたのでもない。
それにあの声。
スピーカーにしてはあまりにも音がクリアすぎたし、そもそも普通に真正面に立って話しかけられてもあんな聞こえ方はしない。
しかし、仮にあれが本当だったとしても、たった一週間の間に一体何が起こればこんな漆黒の未来が訪れるのだろうか?

「とりあえず保留だな」

そうつぶやいて机に向かって写真を投げる。
写真はくるくると回って空を裂き、きれいに整理された机の上に着地する。
それを確認して電気を消して目を閉じた。

何分たったのだろうか?
眠れないでいるとひとつの映像が頭を過ぎった。

それは学校での授業の映像。
いつも学校で見ている光景が写り、黒板には見たことのない公式と数式が並ぶ。

今のが、未来?
そう思った瞬間、意識は深い眠りの中に落ちていった。



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