第一刻 ドラマのような出会いはそれを望まないときに限って起こる
「はぁっ、はぁっ、どうしよ」
このままだとゼッタイに間に合わない。
腕時計を見るとあと3分もない。
「あぁ。時計見なきゃよかった。」
見た瞬間にちょっと後悔。
時間を確認したってかえってあせるだけだ。
いくら時計を睨んでも間に合わないものは間に合わない。
そうだ、間に合わないものはいくらがんばっても間に合わないんだ!
「ってなに開き直ってるのよ!!!」
自分で自分に突っ込みを入れる瞬間になにかとても切ないものを感じた。
しかし、このままだとほんとにまずい。
闇球でも持ってきていればそこまで大変なことにはならなかったのに。
大体家にあるのは大きすぎてかさばるからよくないんだ。
うん、そうだ。
もっとコンパクトなのがあればこんなに慌てなくてすむんだ。
「いやだから、そうじゃなくて。」
でも、さすがにここまでくると他のもののせいにするしかないじゃない!!
そうだ!私は悪くない!
悪いのは時間が止まんなくてコンパクトじゃないことだ!!
「え?」
時間がコンパクト???
いやだからそうじゃなく・・・
「あぁもう!さっきからなに頭の中で堂々巡りを繰り広げているのよ!」
とりあえず今は馬鹿なことを考えずにひたすら走れ私!
いける!!!
そこの角を曲がればあとは家まで一直線だ。
ここは住宅街だから、さすがに今の時間はほとんど誰も外に出ていない。
このままいけば仮に間に合わなくてもきっと何とかなる。
そう、たとえば思いっきり転んで方向がわからなくならない限り。
しかし、こういうときに限って冗談で考えた「たとえば」や「もしも」が実現してしまうものだ。
ゴツン
「うわっ」
転ぶ瞬間っていうのは本当にスローモーションになるものだ。
一瞬誰かの顔が見えて、その次に青白い空が目に映る。
そして、体が地面にぶつかる直前にまるでシャッターを下ろしたように視界が真っ白になり何も見えなくなる。
私の頭の中では、地面に落ちるまでの間さまざまな思考がめぐっていた。
一瞬しか見えなかったけどぶつかったの同じぐらいの年の男の子だったな。
こんなときに恋愛小説のような展開が繰り広げられてもなぁ。
これで食パンでもくわえて登校時間なら完ぺきなのに。
あとお決まりの「チコクチコクーーー」みたいな台詞。
そんなこと言ってる暇があったらもっと早く走れ!!
だいたいこんな小説や漫画のような展開はまず起こらないし、仮に起こったとしても私の場合は今のようにタイミングが悪くただひたすら迷惑なだけだ。
とか
そういえば狭間の時間はわかるけど何で灰色の時間ってよぶんだろ。
どっちかといえば灰色ってよりは青白いような。
闇は黒で光は白だから足して2で割って灰色の時間?
それは適当すぎるだろ。
誰がいつ作った言葉か知らないけど、言葉を作るならもっと考えて作れっての。
そもそも闇は黒じゃなくて紺色だろ。
光は見えないからわかんないけど・・・
やっぱり白なんだろうか?
といった感じだ。
しかし人の頭は不思議だ。
私だけかもしれないが、こんなことを考える暇があるのならなんで受け身をとろうとかしないのだろう。
いつも「あっ転ぶ」とか考えてしまうが、そんな余裕があるのなら少しでも体勢を整えようとするべきじゃないのだろうか。
ドスッ
あぁ今回もだ。
ここまで思考が及ぶのならせめて手をつくぐらいできただろうに。
幸い頭は打たなかったが思いっきりしりもちをついた。
そういえば「あっ時間に間に合わなかった・・・」とかはまったく考えなかったな。
まず真っ先にこれを考えるべきだとおもう。
「ごめん、大丈夫?」
静かな感じの男の人の声が聞こえる。
近くで足音が聞こえた。
手を差し伸べてくれているのだろうか?
ということは光の住民?
どうしよう・・・
「あの、その、大丈夫だけど大丈夫じゃないかも。」
そういいながら何も見えないとわかっているのにキョロキョロしてしまう。
「君、もしかして闇の住人?道案内してくれれば家まで送っていくよ?」
「え?いいの?」
「うん。こうなったのは俺にも責任あるし。」
ラッキー
不幸中の幸いというやつだろうか?
とりあえず何も見えないままあちこちを彷徨った結果、異常者だと思われ警護隊に通報され、人生ではじめて警察のお世話になるという素敵なシナリオは回避さ
せていた
だけるそうだ。
あっ、迷子になって道を聞くのに警察のお世話になったことは何回かあるかも。
今迷子って聞いて鼻で笑ったやつちょっと来い。
「ありがと。それじゃあよろしく。」
「闇か・・・」
窓をの外を見てぼそりとつぶやく。
見るといっても外はまるで墨を塗ったように真っ黒で何も見えないが。
俺はずっと闇人に憧れていた。
それは俺の性格からだった。
光人はみんな明るくて活発だが、俺はあまりうるさいのは得意ではない。
どちらかというと静かなほうが好きだ。
闇人はみんな静かで光人のようにうるさくないと聞いた。
だから俺は闇人たちの世界に憧れていた。
人々に暗いだのノリが悪いだの言われることもない。
「少し早く出てみるか。」
今日は日課の散歩にいつもより早く出かけてみよう。
といっても灰色の時間まであと2,3分か。
まぁいい。
光球をもって表に出た。
外は真っ黒でそこに光球の光が照らされ周りがわずかに見える。
俺の住んでる場所はちょうど闇人の住宅地と光人の住宅地の境目にある。
この国は丸い塀に覆われていて、真ん中に住宅地がありそれを囲むように商店街やさまざまな施設が建てられている。
東西に西が闇の町、東が光の町と分かれていて北には闇と光の境界をまたぐように巨大な役所がある。
南の方には森が広がり、時間があるときにはその森の奥のほうにあるお気に入りの場所でゆっくりとした時間を過ごした。
さらに北からは巨大な川が流れていて、その川は橋のような構造になっている役所の下を流れまっすぐ住宅地を通って、その後南の森で無数の小川に分かれてい
る。
川は住宅地の途中で地面にもぐっておりちょうど俺の家の周辺はその川の真上にある。
ふと、空を見上げた瞬間に空が墨のような黒から紺色へと変わる。
それにあわせて周りが見えるようになり光球をかばんにしまった。
「今日は森にでも行くかな。」
いつもの場所で本でも読もうか。
今日の予定を考えながらボーっと紺色の空を見つめて歩いていた。
そして、角を曲がった瞬間だった。
ゴツッ
痛ッ。
「うわっ」
誰かにぶつかってしまった。
声からして同じくらいの年の女子だろうか?
何とか足を踏ん張って転ばずにすんだが相手は思いっきりしりもちをついている。
やはり同じくらいの年の女子で、まるで宙に何かを探すようにキョロキョロしている。
「ごめん。大丈夫?」
地面にペタリと座っている少女に手を差し伸べる。
すると、彼女は困ったような表情を浮かべた。
「あの、その、大丈夫だけど大丈夫じゃないかも。」
そういいながら困った表情のままキョロキョロを続けた。
あれ?もしかして周りが見えてない?
ということは・・・
「君、もしかして闇の住人?道案内してくれれば家まで送っていくよ?」
「え?いいの?」
「うん。こうなったのは俺にも責任あるし。」
「ありがと。それじゃあよろしく。」
闇人か・・・
ちゃんと会うのは初めてかもしれない。
それにしても、闇人はみんな静かだって聞いたけどこの子は明るいな。
とりあえず家の方向を聞かないと。
「ここの角を右に曲がるつもりだったんだよね?」
「うん・・・」
ということはさっき俺が歩いてきた道を戻ることになるのか。
「それじゃあこっちに。」
彼女の手をとって誘導する。
この子の手は小さくて指は細かった。
性格は明るくても、やはり闇人で肌は透き通るように白く髪は闇のように真っ黒で、整った顔立ちをしている。
「うんと。私の家はまっすぐいって6軒目?7軒目?あれ?もっとだったかな?アハハッ・・・」
「・・・・・」
本当に闇人なんだろうか?
彼女も俺と同じように異質なんだろうか?
「家の特徴は?」
「うんと。特徴?特徴がないことが特徴かな。」
「・・・・・」
そうか、もしかするとこの子は馬鹿なのか。
「あっ。そういえば家の前に小桜花が植えてあるっけ。」
小桜花か・・・
めずらしいな。あれは確か育てるのが大変だから自分の家で育ててる人はなかなかいない。
ん?
小桜花が植えてある家って俺の家の近くにもあったような。
「君の家ってこの通りなんだよね?」
「うん」
間違いない。
この通りで小桜花といったらあの家しかない。
「ここか。」
そういって近所の家の玄関の前に立つ。
きれいなピンク色をした桜のような花を無数につけた膝丈ほどの花がある。
この花は変わっていて、年中花を咲かせているので万年小桜や永遠桜とも呼ばれる。
こうやって見ると綺麗に咲いた花をたくさんつけていて満開の状態だが、そのたくさんの花の下にはまだ咲いていない蕾があり今咲いている花が散るとその蕾が
花を開く。
家の前は闇球の闇がうっすらと広がっていて、その中まで彼女の手を引いていく。
うっすらな闇がひろがるその中は灰色の時間よりちょっと暗い感じだった。
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