二日目 思考の輪廻(2)
「「あぁ〜。よくねた〜」」
ヒロキとアイが同時に伸びをしながら言った。
この二人は結局午後の二時間フルで爆睡していた。
「さすがに昼飯食った後の授業は気合入れても無理だぜ。」
そういうヒロキの顔にはなぜか達成感のようなものがある。
「おまえらの場合飯関係ないだろ。」
「まるであたしたちがいつも眠っているような言いようね。」
アイがいかにも心外そうに言う。
隣でヒロキがうんうんとうなずいている。
「二人とも実際にいつも眠っているでしょ?」
サトミもあきれた風に言った。
「睡眠学習だ。そんなことより喫茶に行くんだろ?早く行こうぜ。腹が減ってきた。」
「食っては寝て食っては寝て。お前はブタか?」
「こんなスリムでイケメンな豚、世の中にそうそういないぜ?」
たしかに、ヒロキは顔や体型はいいほうだが自分で言うこともない。
「ほら、寝言をいってないで早く行こう?」
サトミがさらりとひどいことを言いつつかばんをもって催促をする。
「ほら、いくぞヒロキ」
「お前が突っ込んできたんだろ?」
不満そうにヒロキはそういいながら歩き出す。
他愛もない話をしながら駅前へと向かう。
学級のこと、先生のこと、テレビ番組のこと。
そんなことを話しながらも、俺はずっと頭の隅で一瞬見える未来のことを考えていた。
考えることが疑問を生み、その疑問が俺をさらに思考へと浸からせ、そしてまたその思考が疑問を生む。
いつまでこれを繰り返しても疑問は消えず、ひたすら増えていく。
頭のほんの一部を占めていたこの思考はみるみるおれの脳全体を侵していく。
そして、この力への興味、興奮、そしてわずかな恐怖が生まれる。
「どうしたの?」
サトミが心配そうにこちらを見ている。
「ん?」
「店の前に立ってないで入ろうよ。」
気がつくと俺はもう喫茶店についていた。
目の前には真新しい洒落た感じの喫茶店がある。
「どうしたのあんた。途中から急に口数が減ったと思ったら今度は店に入らないでボーっとして。」
「なんかこいつ今日ずっと変なんだよ。」
アイとヒロキが同じく心配そうに言う。
「大丈夫、ただ疲れてるだけだから。」
そういって何とかごまかす。
考える以前から感覚でわかっていた。
このことは絶対に誰にもいってはいけない。
結局、喫茶店に入ってからもずっと頭の半分近くは一瞬のことが占めていた。
あたりが薄暗くなった帰り道。
みんなと別れうちへと続く道をたどる。
それは、また突然きた。
ここと同じ場所。
時間はもっと早い。
明るさからいってちょうど寄り道せずに学校からまっすぐ帰ったような時間帯。
ただ、雨が降っている。
手にはかさが握られていて雨は結構激しそうだった。
いまのを見て安堵すると同時に不思議な気持ちになった。
今回のは違う。
明日はみんなで買い物に行く約束をしていた。
あんなに早く帰ることはない。
それに天気予報も晴れで、降水確率も0%だった。
「たまたまだったのか。」
今までのはただの偶然だった。
既視感、デジャヴってやつだ。
物理の問題も予想しようと思えば予想できた。
問題を出すならあまり人が手をつけていないものでそこそこの難しさがあるもの。
そう思えばあの問題集は理にかなっている。
きっと昨日のことで暗示みたいなのがかかっているんだ。
よくよく考えれば、なんてことのないもの、デジャヴ、偶然。
それなのに、未来が見えてると思い込んでる。
ただそれだけ。
ただそれだけ。
実際はそう思い込んでるだけと思いたかっただけ。
未来が見えるなんていうのは思い込みで、あの真っ暗の写真もただのいたずらか何か。
声が聞こえたのはきっと幻聴。
そう思いたかっただけ。
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