三日目 証明
朝起きるとカーテンの隙間からは明るすぎるほど明るい日差しが差し込んでいる。
雲ひとつない快晴。
「所詮は思い込み・・・」
そう自分に言い聞かせるようにつぶやく。
もう何度目かわからない。
学校に行く支度をするときに天気予報を見たがやはりここら辺いったいの今日の天気は晴れ、降水確率0%。
それなのになぜか、俺は傘を持って出かけていた。
学校に着くまでに見かけた人の中でかさを持ってる人なんて一人もいない。
「オッス!」
靴箱のところでうしろからヒロキが声をかけてきた。
「おう」
「どうした?今日もお疲れか?顔がいかにも疲れました、って感じだぞ?」
「そうか?」
昨日はうちに帰って最低限のことを済ませてからすぐに寝た。
疲れるようなことは何もしていない。
「一週間はまだまだ長いぜ。今日も一日ガンバロー」
一週間。
その言葉が頭の中で何度も響く。
五日後。
午後八時。
「そ、そうだな。」
そこまで考えて逃げるようにヒロキにいった。
「ガンバローって言ってもお前の場合半分以上寝てるだろ?」
「あれは睡眠学習というやつだ。」
「夢の世界で勉強をすると、現実では頭が悪くなるのか?」
「それはおまえ喧嘩売ってるのか?マッチ売りの少女みたいに誰にも買ってもらえないのはかわいそうだから買ってやるぜ」
「そりゃどうも。」
ヒロキは休み時間ごとに俺のとこに来ていつも以上に明るく振舞い笑っていた。
そのおかげだろうか?
そのおかげでこの日一日はあまりあのことについて考えずにすんだ。
途中までは。
帰りのホームルームの時。
先生が連絡事項を言っているときだった。
「・・・なので注意してください。それから、前の数学のテストで40点をいかなかった生徒、今日の放課後追試と講習を行うから一階の中教室に放課後集まる
こと。」
まさか。
ヒロキのほうを見ると苦笑いしている。
ひっかかったのか?
「それと保健委員会の二人。この後保健室に集まるように。」
保健委員会?
サトミとアイが保健委員会じゃなかったか?
胸騒ぎがする。
これでは買い物にいけずこのまままっすぐ家に帰ることになる。
大丈夫だ、落ち着け。
昨日見たときは雨が降っていた。
朝もあんなに晴れてたし降水確率も0%じゃ絶対に雨は降らない。
「規律、礼。」
ホームルームが終わると急いで午前中からしまっているカーテンの外を見る。
そこに広がるのは青い透き通った空ではなく、灰色でよどんでいる暗い空だった。
その空からはわずかだが雨がぱらついている。
「マジかよ・・・」
「どうしたんだ?うお、雨降ってるじゃん。俺傘もってきてねーよ。これじゃあどっちにしろ買い物は無理だったな。」
「そうか・・・」
「ん?どうしたんだおまえ?顔色悪いぞ?やっぱり風邪でもひいたんじゃないのか?」
「大丈夫、大丈夫だから。」
「そうか?まあいいや。そんじゃあな、俺はお察しのとおり追試があるんで。」
そういってヒロキはその場を去っていった。
俺はしばらく立ち尽くしたあと、ようやく帰り支度をして学校を出た。
学校を出たときは小雨程度だった雨はだんだんと強く激しくなってきた。
まるで俺が一歩ずつ前へ進むのにあわせるかのように重くなっていく。
無気力。
何も考えることができず、ただ家へと続く道を歩いていた。
雨が傘にあたってはじける音が頭の中で響く。
雨の響きは絶え間なく、幾重にも重なり頭を埋め尽くし、まるですべての思考を消し去っていくかのようだった。
あらゆることが消し去られた流れ込んでくるのは重い黒。
その無気力と黒の中に大きな意識の一粒が落ち、はじけた。
まるで重い雨が俺を押しつぶしてしまったように。
その一瞬は昨日の帰りに見た一瞬と完璧に重なった。
そして一昨日の夜に聞いた声の言葉がすべて、頭の隅々まで響き渡り何度も幾重にも反響する。
俺は気がついたら家に帰ってきていた。
夕飯を済ませ、ベットの上でずっと宙を見つめていた。
俺はふと起き上がり、外へ出る準備をした。
一昨日もこのぐらいの時間だった。
もしかしたら、またあの声を聞くことができるかもしれない。
なんとなくそう思ったし、そうなることを願っていた。
街頭に照らされた光の丸を俺はひたすら渡り歩いた。
昼間の雨はもうやみ、嘘ではないかと思うぐらいきれいに晴れていた。
いくら歩いても、あの声は聞こえてこない。
しかし、代わりに突然聞きなれた声が響いた。
「どうしたの?こんな時間に」
声の主はサトミだった。
手にはコンビニの袋を持っている。
「なんとなく散歩してた。」
「そっか、私も一緒にいい?」
「ああ」
サトミは俺の横に並んで歩きだす。
「今日は残念だったね、買い物いけなくて。」
「ああ」
サトミは俺のそっけない返事に少し心配そうな顔をする。
「最近なんか変だよ?どうしたの?」
「そうか?」
「うん」
「・・・もしかしたら俺。これから良くないことにあうかもしれない。」
「良くないこと?」
「俺もよくわかんない。」
「そっか。でもさ、良くないことが起きるって決まったわけじゃないんでしょ?かもしれない、でつまらない日々を送るってなんかすんごく損じゃないかな?」
「損か・・・」
確かにそうかもしれない。
あの声も言っていた。
真っ暗な未来は可能性の一つ。
きっと一瞬一瞬を最善のものを選んでいけばきっと逃れられる。
あの真っ暗な未来はいつまでも俺がこのことを気にしているから引き起こされるのかもしれない。
何で今までこんな事に気づかなかったんだ?
そう、俺が見るのは道しるべ。
こっちに行けばこうなるというもの。
それなら自分にとっていいほうを選べばよい。
これはチャンスなんだ。
俺は本来ならこのまま訪れる真っ黒な未来をかえる機会を与えられた。
自分の未来を直接選んで決める権利を与えられた。
「そうだな。一番いい生き方をすればいいんだよな。」
そういう俺をみて、サトミが微笑む。
「よかった。」
「え?」
「最近様子がずっと変だったから。やっといつもどおりに戻って良かった。」
「そっか。ありがと。心配かけてわるかった。」
「気にしなくていいよ」
そういってサトミは駆け出す。
「私はこうやって心配したり励ましたりできるだけで幸せだから」
「え?」
聞き返そうとしたが、サトミはもう俺のいる通りからは消えていた。
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