第三刻 本屋には魔と麺が潜んでいる
「さて」
それじゃあ森に行こうかな。
しかしさっきのは結構疲れた。
まるで同じ光人と一緒にいるような気分だった。
「あっ」
商店街の本屋に行くんだった。
今読んでいる本がもうすぐ読み終わるから新しい本を買いに行くつもりでいたのだが、さっきのですっかり忘れていた。
来た道を引き返しいつものようにボーっと考え事をしながら本屋に向かった。
そういえば闇の方の商店街はどうなっているんだろうか?
地図もあまり詳しいものは見たことないし、ラジオで闇の方の電波を受信しようとしてもノイズが入ってよく聞こえない。
そういえば写真や絵も見たことないな。
国全体を描いた絵だったら見たことがあるけど闇の町だけの風景画や写真なんかは見たことがない。
そんなことを考えていると商店街に着いた。
今までの思考を中断し本屋に入り、面白そうな本を探すのにタイトルをざっと見ていった。
『建築の今昔』
建築にはあまり興味がないな。
『今の教育のここがいけない!?』
教育も同じく。ところでどうして最後にハテナがつくんだ?
『空の向こうで』
少し前に話題になった恋愛ものか・・・そういう気分じゃないな。
『かごの中の世界』
小人や妖精の出てくるファンタジーか。どっちかといえば子供向けだな。
『誰でも作れる本格パスタ』
森の中で読むには間違っていると思う。
『偉人伝 カルボナル婦人』
知らない名前だな。
『不思議な呪文 ペペロチーノ』
・・・
ふと横を見ると本屋なのになぜかスパゲッティの麺が置いてある。
この本屋の店主はやはりふざけている。
本の配置を絶対に間違っている。
絶対に何かを狙っている。
何度ももうこの本屋には来ないと思ったが、本屋がここ一軒しかないのだから仕方ない。
前に来たときは、妙に禿げた頭の強調されたおじさんの偉人伝の横に『あなたはいまのあなたのままでいいのか!!』という自己啓発書があり、その横には『お
うちで簡単!手作りの紙の作り方』という本がおいてあった。
さらにその隣には『暴かれた偽造!!いまの政治は腐っている!!』という本がおいてあった。
あなたはそのままでいいのか?と問いさらに作り方まで提示しておいて、偽造だの腐ってるとは店長は何を考えているのだろう?
そんなことはともかくとりあえず本を選ぼう。
本屋の中を一通り見た後なんとなく目にとまった小説を買うことにした。
「おう、シトか。相変わらずしけたつらしてんなあ。」
運悪くレジに立っていたのはこの本屋の店長のおじさんだった。
お祭り大好きでまさに光の住人といった感じの人だ。
「うん。確かにこの本も面白いが、ペペロンチーノはいらんのか?」
あれ、絵本だったろ。
しかも本のタイトルはペペロンチーノじゃなくてペペロチーノだった。
やっぱりこの親父はふざけてる。
「いらない」
「そうかいそうかい。あの本の並びにしてからペペロチーノはもう100冊は売れたんだがな。パスタの麺も同じくらい売れが、やっぱりオメーさんはかわねー
か。」
100!?
一瞬耳を疑ってしまう。
この国の人はきっと何か根本的な部分で間違っている。
「まぁオメーさんらしいってばそうなんだけどよ。ほれ、」
そういってカバーをつけた本とお釣りを渡す。
「どうも」
「はいよ、毎度あり」
おじさんは相変わらずこっちが疲れるぐらい元気だな。
そういえば、と思い店に入る前に考えていたことを思い出す。
なんで闇の町の風景画や写真がないんだろう。
お互いに関わりあわないってことなのか?
こうなったらやっぱり行ってみるしかないな。
しかしどうして今まで行ってみようとは思わなかったのだろう。
そういえば闇の町もそうだがこの国の外はどうなっているんだ?
この国の外の話はまったく聞いたこともないし、話題になったこともない。
なんでだ?
・・・・・・・・・・・・・
「あれ?」
もう森か。
なんか今日はいつもより早い気がするな。
というか何のこと考えてたっけ?
まあいっか。
いくつもの大木が立ち並び足元を時々川というにはあまりにも小さい湧き水のような小川が流れている。
いつも座っているのと同じ石の前に立ちゆっくりと深呼吸して上を見上げる。
目の前にあるお気に入りの岩は斜めに地面から生えていて軽く丸みを帯びている。
座ったり横になるにはちょうどいい感じだ。
はるか上は木の葉に覆われさわやかな黄緑の空が広がり、所々から光の柱が伸びている。
あちこちを流れる小川の水の音をBGMに買ってきた本を開く。
さて。
これからどうしようか。
長期休業の間ずっとここで過ごすというのも悪くはないがあまりにもつまらない。
「まあなるようになるか。」
そこまで思考が達したところで本をパタンと閉じ岩の上に大の字に寝転がった。
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