第四刻 遅刻ぎりぎりの登校角を曲がったらドーン症候群重症患者一名




「そうだ!!」

「なに?急に」

「なんでもないよー」

「ニヤニヤして気持ち悪いわね。」

え?
お母さんに言われて顔をぺたぺたと触る。
確かに。
自分の顔は微妙ににやけた顔している。
急に大声上げてニヤニヤするなんてただの変態以外の何者でもないじゃないか。
あわてて顔を元に戻してからこれからの行動を頭に思い浮かべる。

「お母さん。ちょっと出かける!!」

「ちょ。あんた何言ってるの。まだ灰色の時間の一時間も前じゃない。」

「いいのー。ちゃんと闇玉もってくから。」

ダダダと部屋に向かい闇玉とかばん持って玄関に向かう。

「そんじゃあいってきまーす」

「ウルイ!?」

バタン
お母さんの制止の声も扉の向こうへと消えた。
通りを歩きリチアの表札を探す。

「あった。」

これがシトの家か。
と、ここでとある思考にいたってしまった。
いや、いたってよかったのかも知れない。
シトにあってどうするんだろ?
特にお礼を何か持ってきたわけじゃないし。
考えて見ればおかしいじゃないか。
男の子にあう方法を寝るまでも起きてからも考え続け、おまけに思いついた瞬間にやける。
これはあれか?
恋というやつか?

カアッ

一気に顔が真っ赤になるのを感じる。

「うわああああ」

地面にしゃがみこんで叫んだ。
確かにかっこよかったけど私は面食いなんかじゃない・・・はず。
きっとあれだ、「遅刻ぎりぎりの登校角を曲がったらドーン症候群」ってやつだ。
登校してたわけじゃないけど状況的には十分に該当する。
所詮私もこんなに簡単にシュチュエーションに流されてしまうのか。
舌をかんだ気がするけど気にしない。
よし、とりあえずどこかに行こう。
家に帰るのは親になんか言われそうで癪だからどこかで時間をつぶすことにしよう。
そうと決まれば行動開始!!
立ち上がりリチアの家の前から去ろうとしたその瞬間だった。
立ち上がって右を向いた瞬間に見覚えのある誰かと目がばっちり合う。
今日もまた大層運が悪いかも・・・

「人の家の前で何やってるんだ?」

「いやあ。その。」

だめだ。
絶対にいえない。

「いやあ。その。お礼をしようと思ってきたんだけど、その、家に着いたのはいいんだけど何もお礼を持ってきてなくって、何やってるんだろうって思っ て・・・あ」

うわあああ
嘘を言おうとしたつもりが思わず本当のことをしゃべってしまった。
私はきっと正直で嘘がつけない体質なんだ。

「と思って頭を抱え込んでしゃがみこんでいたりしたわけじゃないから。」

ぐわあああ
何とか取り繕おうとして最後に否定してみたけど、これじゃかえって逆効果だ。

「そっか。お礼をしようと思ってきたはいいけど何も考えてなくて、その自分の間抜けさに絶望して人の家の前でしゃがみこんで絶叫していたというわけではな いんだな。」

「そうそう。」

って信じてくれるわけないだろ!!
というかなんか私が言ってないことまで増えている気がするがきっと空耳だ。

「お礼なんて気にしなくていいよ。」

「いや、でも助けてもらったし。それに・・・」

「それに?」

よし。
今度は口に出す前に何とか飲み込んだ。
さぁ
ここで頭をフル回転させてこの後なんてつなぐか考えなくては。

「あ、ほら。光人とちゃんとあって話したことなかったから、ゆっくり話しとかしてみたいなって。」






確かに、俺も闇人とちゃんとあって話すのは初めてだ。
ゆっくり話してみたい気もする。
それに、何か闇人に聞いてみたいことがあった気もする。
でも灰色の時間の三十分じゃろくに話もできないだろうし。

「確かに俺も闇人とはちゃんと話してみたいと思ってたけど、時間がない。」

「それなら、私は別にこうやって闇球持って出かければいいから大丈夫だよ。」

ふむ。

「あとはどこか場所が必要だな。さすがに家はまずいだろうし・・・・・南の森なんかどうだ?俺いつも森に行ってるから。」

「森かあ。いいねえ。それで時間はどうする?」

「そうだな。闇から光の灰色の時間の一時間ぐらい前にまたここで。」

「え?いいの?」

「ああ。俺も光球持っていくから。」

「オッケーわかった。それじゃあまた後でね。」

そういってルイは軽い足取りで去っていった。
それにしても闇人に聞きたいことってなんだったっけ?
まあ後でゆっくり思い出すか。

「ただいま」

「おっかえりーシトにい」

今日はいつになくテンションが高いな。

「ただいまリン」

「シト兄、今日は早く出かけたんだね。」

リンが寝転がって、さっきまで読んでいたのであろう漫画を手に持ったまま足をばたつかせながら言った。

「今日は本屋に行く予定だったから。」

「ふーん。ところでさっき表で誰か叫んでなかった?もしかして不審者だったり?」

「何でうれしそうに不審者かどうか聞くんだよ。別に変なやつだけど不審者じゃなかった。」

「なーんだ。前に不審者が出たとき友達がラジオでインタビューされてたんだよ。いいよねーなんかでないかなー。」

この妹は何を物騒なことを言っているんだ。
そういえばにぎやかなのが一人足りないな。

「母さんは?」

「疲れたから先に寝るって。」

「飯は?」

「・・・あ」

さて。
いくら疲れたとはいえまだ灰色の時間にもなっていないのに寝るとは。
しかも、飯も作っていないと。
時計を見る。

「10時45分か」

親父が帰ってくるまで大体45分。
それまでに何とか食べ物を作らないととんでもないことがおきてしまう。


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