第六刻 脳内会議中に詐欺にあって水晶球買わされそうになりました
「さて。」
この後いったいどうしようか?
とりあえず商店街に行ってブラブラして時間をつぶそうかな。
さあ、それでは商店街に着くまでの時間を有効活用しようじゃないか。
いま、私には最大にして最も難しい問題がある。
それについて頭の中で議論しようじゃないか。
議題「私はシトに一目惚れしたのか否か。」
・・・・
カアッ
考えた瞬間に顔が真っ赤になる。
私はいったい何を馬鹿なことを頭の中で議論しようとしているんだ。
こんなこと脳内議論するなんて馬鹿だ。
と思いつつも考え始める。
いったいどこにシトに惚れる要素があった?
シトとあってからの行動を思い出す。
ぶつかって、大丈夫?って聞かれて、家まで手を引いておくってもらって、名前を聞いて家聞いて、そしてまた会う約束をした。
あれ?これだけ並べると捕らえ方によっては恋愛小説みたいじゃないか。
いや、それはない。
そこまでロマンチックな雰囲気ではなかった。
それはおいておくとして、いったいどこで好きになる要素があった?
きっとあれだ親切に家まで送ってくれたあたりとか、手をつないだあたりとかだ。
うん、そうだ。
あれ?
なんであたしがシトのことを好きになってること前提で話が進んでるんだ?
カアッ
「うわああ」
またしても道の真ん中でしゃがみこむ。
幸い周りには誰もいない。
顔がこんなにも熱くなるのは今日一日でいったい何回目だ?
きっとこんなのは気の迷いだ!!
よし!!
私は再び商店街への歩みを進めた。
商店街に入る手前ぐらいで真っ白で何も見えなかった周りの風景が青白くなり、闇球なしでも周りが見えるようになる。
私は闇球をカバンにしまい、そのせいで少し不恰好に膨らんだカバンを見てしかめっ面をしてから商店街の通りを歩く。
まだ人もほとんどいなくて、いつも以上に静かな通りだ。
静かな闇人とはいえ、いるといないとでは大分違う。
「あぁ。失敗したな。」
商店街をぶらつくと言ってもこの時間じゃ開いてる店なんてそうそうない。
そんなことを考えているときだった。
人がいないだけのいつもと同じ商店街に、本当に小さな異変があった。
そして、私はたまたまその異変に気づいた。
店と店の間の人が二人ぎりぎり並べる程度の隙間。
そこに何かがきらめいた。
暇をもてあましていたからだろうか?
私は吸い込まれるようにその隙間のきらめきの元へと向かった。
「ほう。よく来たね、じょうちゃん」
「え?」
ふと気がつくと、目の前には怪しげなマントを着てフードを目深までかぶった老人が一人。
その前には胡散臭い紫の布がかけられた机にこれまた胡散臭い、しかしそれでもとても美しい大きな水晶球が乗っかっている。
はぁ。
きっと私はとても正直でこの水晶球よりも美しい心を持っているんだ。
そうでなければ気がつかないうちにこんないかにもな詐欺に引っかかったりはしない。
そう、決して幽体離脱をしていたわけでも、ただ単に不注意なわけでもない。
美しすぎたのだ。
「おまえさんはここまで来て一体何を間抜けな妄想をしているのかね。妄想をするのはかまわんが、現実との区別はちゃんと付けるのじゃぞ?」
あり?
もしかして今の全部口に出てた?
おかしいな、そんなつもりはなかったんだけど・・・
てか、いま遠まわしに私の美しい心を否定して馬鹿って言ったわよね?
「だれもそこまでは言っておらん。それとわしは詐欺師じゃあない。しがない占い師じゃよ。」
こんなところに占いの店?
私はこの水晶球を売りつけられるのだろうか?
ただでさえカバンには一つ大きな玉が入っているというのに。
私は玉フェチじゃない!!
「誰もおまえさんの趣味の話などしとらんよ。それと、こんなところでも来るべき者は来る。おまえさんのようにな。その者に言葉を与えるのがわしの仕事の一
つじゃよ。」
「一つ?」
「そのほかにもアカシックレコードとしての仕事などいろいろあるのじゃがの。そんなことよりも、おまえさんは来るべき時に来るべき理由をもってここに来
た。俗にいう運命というやつじゃ。じゃが、わしの目から見ると、言葉をのべるにはお前さんはまだ早すぎる。今はおまえさんがここに来るべき時ではあるが知
るべきときではないの。」
よくわからないけど、それじゃあ私は何のためにここに来たんだ?
だいたいなぜ私はこの薄汚れた場所でこの爺さんに運命を感じないといけない?
「薄汚れたとは失敬じゃの。よいか、生きるということは過去や記憶という名の歯車を回すということじゃ。そして、今ここに来たことでそのことが無数の歯車
のひとつに加えられ、歯車はまた違った回り方をする。より遅く、より速く。」
そう聞きおわった瞬間に私は商店街の通りの真ん中に立っていた。
歩いている人もさっきよりは増えている。
今のって・・・一体なんだったの?
周りを見回すがさっき見たような水晶球のきらめきは見当たらない。
「う〜〜〜ん・・・まあいっか」
こういったことは考えていても仕方がない。
いつも首にかけている懐中時計を見ると予想以上に時間がたっていた。
「こんなに長い時間あの爺さんと話してたっけ?」
まぁちょうどいい時間潰しになったからいいのだが。
それよりもこれからどうしようか。
店もだいぶ開いたみたいだし、とりあえず雑貨屋でも見てまわってから家に帰って一休みしようか。
そのまえに腹ごしらえだ。
朝ごはんも食べずに飛び出してきてしまったからおなかがすいてきた。
「ん〜」
クレープ、スープ、サンドウィッチ、カルボナーラ、ペペロンチーノ・・・
どれにしよう?
頭の中で繰り広げられる葛藤。
第六次脳内朝食大戦。
「あら、ルイ。今日は早いのね。」
戦時中に急にかけられた声の方を向くと長い髪のきれいな女の人が立っていた。
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