第十一話 大量の敵と阿呆と




「それじゃあ地獄でな」
トゥリトスは高笑いをしながら消えてゆく。
それと入れ違いになるように地面のあちこちから無数の影が浮かび上がる。
さっき十字路に現れた影たちと同じ姿だが強さが決定的に違っていた。
すべての影が、さすがに機関の者ほどではないが普通の能力者と同じぐらいの力をもっている。
「くそっ」
両手に刃をつくり周りにいる影を切り倒していくが、さっきのようには簡単にいかない。
気を抜けば逆にこちらがやられてしまいそうなほどだ。
さらに、強さだけでなく数もさっきの何倍もある。
「きりがないな」
りょうが弓を振りながらきつそうに言う。
りょうの弓には刀のような刃がついていて近くの敵を切ることもできる。
弓の一番下、弦が出ている本弭に柄のようなものがついていてその反対側、弓のてっぺんは鋭くなっている。
全体を見ても握り以外の部分はすべて刃がついている。
まるで身の丈以上もある巨大な大剣のようだ。
「あいつ、こんな厄介なもの残していきやがって」
敵を切りつけながら文句を言う。
本当に厄介だ。
さっきやったように共鳴の術式を使って大爆発を起こしたらまとまって黒いバリアのようなものを張られて爆発を防がれた。
刃を一定以上巨大化させても同じように防がれてしまう。
どうやらあまり多くの影を攻撃の対象にするとまとまって壁を作るようになっているらしい。
つまり、こうやって地道に倒すことしかできないということだ。

「お困りのようだな」
突然、よく知っている軽い阿呆の声が聞こえた。
「何しに来た?」
声に向かって言い返す。
「お前らが頼りないから応援にきてやったんだよ」
小ばかにするようにそういいながら現れたのはウィストだった。
「なんで?」
りょうが疑問を口にする。
どうやらりょうも俺と同じことを疑問に思ったらしい。
何でよりにもよって応援がこの阿呆なんだ?
「なんで?応援が来てくれたんだ?」
そっちか。
俺にとっては応援が来たことより阿呆が来たことのほうが疑問だったのだが。
「ゼロが緊急召集をかけてここに私たちを向かわせたのよ」
りょうの疑問に答えたのはウィ、阿呆ではなく阿呆のすぐ後に姿を現したレイピスだった。
「ゼロが君の使った空間移動や裏の機関の者の気配を感じ、君たちがその裏の者と戦っていると考え即時にメンバーを召集し我々を応援に向かわせたのです。こ の空間へはゼロの空間移動によって送られました。」
さらに冷静でとても賢い若い男、機関のNo.6ワイズの声も響く。
阿呆一人だと思って不安になったがレイピスとワイズがいるなら大丈夫そうだ。
「相変わらず話しなげーなーおい」
知的なワイズとは正反対のウィストの声が響く。
「私はただ事実を的確に説明したまでです」
「はいはい。そーっすか。」
そんな会話をしながらも皆、手を休めることなくただ目の前の敵を倒し続けている。
「ところで、なんなの?これ」
レイピスが不満そうに言う。
整った顔が今にもキレそうなほど歪んでいる。
怖い。
道理でさっきからうまい具合に阿呆がレイピスのいるこちらを向こうとしないわけか。
「倒した裏のやつの置き土産」
りょうが簡潔かつクールに答える。
「めんどくせーな。まとめて片つけちまおうぜ」
「どうやらこの影、あまり範囲の広い攻撃を行うと特殊な方法でそれを防ぐようです。このように」
ウィストの愚痴にワイズが実際にやって見せて答える。
ワイズが手を大きく水平に振ると、その軌跡が大きな光刃となって前に飛んでいく。
それがさっきと同じように、黒い壁によって防がれる。
「へいへい。そんじゃあとっとと欠片使ってかたつけようぜ」
そういいながらウィストは腕を胸の前でクロスさせ構え、そして黒い影の渦巻くなかへと走り消えていった。
その手にはそれぞれの指の間に一本づつ左右で合計8本の漆黒のナイフが握られていた。
ウィストのハイマのナイフだ。
トゥリトスのと同じように本体は両手すべての指にはめられている銀の指輪だ。
「そうね」
そういうとレイピスの両手には彼女のハイマであるチャクラムが現れた。
特殊な形で、長い部分で40cmほどの人の目のようなアーモンド型をしている。
中には十字の持つ部分がありさらにその真ん中には穴が開いている。
彼女はその穴に指を通しチャクラムを回し、そして器用に投げた。
するとチャクラムの両側からその全体を包むように光の刃が出て、回転しながら周りの敵を切り裂いてゆく。
同じようにワイズは無言で自分のハイマの巨大な鎌を出し、敵を真っ二つにしていく。
その姿はまるで黙々と命を刈る死神のようだった。
「あれ〜ヴィオくんどうしたのかな〜?君の欠片の武器は〜?」
またも阿呆が遠くからふざけながら馬鹿にして言う。
「うるせー」
「あぁそっか。つかえないんだっけ?」
ニヤニヤしながら敵を切り裂きつつ言う。
確かになぜか俺はハイマを使えなかった。
前に一度、機関の任務ではハイマが必要だろうというアズテルの助けを借りて術式などをつかって無理矢理ハイマを出そうとしたが、結局出すことができずに終 わった。
アズテルが言うには俺のハイマはあまりに深いところで眠っているので自然に目覚めるのを待つしかないのかもしれないということだった。
「べつに使えなくても俺は十分に戦えるんで」
「負け惜しみにしか聞こ」
「ちょっとよろしいでしょうか?ヴィオ。今から私がこの者達の壁を刈り取ってみます。もし成功したらそこに術式で大きな一発を叩き込んでください。」
ワイズがかなりの距離がありながらも言い合いをしている二人をさえぎるように俺のそばに来て言った。
「最後まで言わせろクソ死神!!」
「失敗したらかなりの能力を無駄に消費してしまうというリスクがありますがどうしますか?」
何も聞こえなかったかのように言う。
どうやら阿呆の暴言はクールにスルーするようだ。
ハイマにはそれぞれに特殊能力が備わっている。
ワイズの鎌に備わっている特殊能力はさまざまなものを刈り取ることだ。
対象の力より自分の力の方が上回っていれば、防御の壁だけでなく攻撃や、場合によっては相手の命そのものまでも刈り取ることができる。
その能力のためにワイズは死神と呼ばれている。
「わかった。やってみよう。」
おれは頷き、術式を構築し始める。
「レイ。レイピス。ウィスト。こっちに」
「なに?」
ワイズが呼びかけた瞬間にレイピスとウィストが俺の後ろ、背中合わせに立っているワイズの前に現れた。
二人は高速移動や瞬間移動などを多用するスピードに重点をおいたタイプの戦闘を専門としている。
彼らのようなタイプの能力者はたいてい先天的なものか、もしくは道具や術式などによる後天的なものによる影響で瞬間移動にはほとんど力を消費しない。
遅れてりょうが弓であたりの敵を切り倒しながらこちらに合流してくる。
「私の鎌でこの者達のつくる壁を刈り、そこへ強力で広範囲の術式をヴィオに発動してもらいます」
「へぇ考えたわね」
「それならいけるかもしれない」
レイピスとりょうが同意する。
「よろしいでしょうか?ウィスト」
「どーぞー御自由にー」
ウィストが適当くさく返事をしたが、ワイズは気にせず続ける。
どうやらウィストはさっきスルーされたことを気にしているらしい。
「準備はいいですかヴィオ?」
「あぁ」
「それではいきます」
そういってワイズは鎌を両手で持ち上に突き上げる。
するとまるで上に水面があるかのように柄の先端部分から波紋が広がる。
鎌の天辺から広がった波紋は影のずっと向こうまで広がっていく。
それに反応してすべての影たちが黒い壁を作った。
それを鎌を大きく横薙ぎに振って刈り取る。
鎌は振られる瞬間に巨大な光の鎌となった。
その光の巨大な鎌がゴウッと不気味な音を立てて風をきる。
真横に振りきられると鎌は再び元の大きさにもどっていた。
影を覆っていた壁は消え、もとにもどった鎌の刃の周りには壁と同じ色の黒い何かがまとわりつくようにうごめいていた。
壁が消えると同時に術式を発動させる。
5人を取り囲むようにして白っぽい半透明な筒状の壁が現れる。
遥か上まで上る壁でさっきまで黒ばかりだった視界が白くなり、そしてその次の瞬間には真っ赤に染まった。
「さすがですね。五重術式ですか。私たちを守る術式に、共鳴、反射、風刃、それにこれは地獄火」
術式というのはいくつかを重ね合わせることで構成する間を置かずに連続で使うことができる。
特に術が強力になるにつれて式が複雑になり構成にも時間がかかってくる。
だから強い術式を連続で使うときは今のように重ねて使う。
ただし、構成するのにかかる合計の時間は変わらないので何重にも重ねるとその分時間稼ぎが必要になる。
「あぁ。風刃や地獄火はともかく共鳴や反射にまで気づくなんてワイズもさすがだよ」
ワイズは力を感じ取るということに関してかなり秀でていて、何重にも重ねた術式の中身やわずかな能力の変化を感じ取ることができる。
さっきも影の能力を正確に察知して壁を形成するぎりぎりの範囲の広さの攻撃をしていた。
「いえいえ。そんなたいしたことではありませんよ」
ワイズは仮面を外しながらとても丁寧な口調で言った。
仮面はもともと敵に顔を知られ普通の生活をしているときにまで襲われることがないようにするためにつけている。
きっとここまでくれば大丈夫だと思ったのだろう。
ちなみに、機関の集会のときにつけるのは単なる規則のようなものだ。
「地獄火か・・・あんた風刃やこの壁の式だって十分めんどくさいのによく5重にも式を重ねられるわよね」
レイピスの言うとおり、式は重ねると何倍にも複雑になり構成もしにくくなってくる。
さらにどこか一箇所でも式を間違えれば力を消費するだけで式はひとつも発動しなくなってしまう。
ちなみに術式はずっと昔から伝わってきたもので、中にはなぜか人間が現れる前、この地球に生物がまったくいなかったとされているような時代につくりだされ たとされているものまである。
そういった式は"太古の式"といわれ強力で難しいことで有名で、地獄火もそのひとつである。
「へっ生意気ながきだな」
「あんたもそんなに差はないでしょ?」
「うっせー」
「まぁまぁ」
レイピスとウィストが言い合いそれをワイズがなだめているうちに周りはまた白に、そして黒にもどってゆく。
「それでこの後どうすればいいんだ?」
「とりあえずいったんもとの空間にもどってからゼロたちのところへ行きましょう」
りょうの問いにワイズが答える。
機関の部屋へは第四層からしかいくことができないようになっている。
「わかった、ゆう」
「オッケー」
りょうに呼びかに応えて再び空間移動の術式を使う。
広がる波紋に連れられ静かな夜の住宅地、俺たちの町が広がってゆく。
もうだいぶ暗くなっていた。
あたりはさっきのことが嘘のような静寂に包まれている。
「いきましょうか」
5人がそれぞれ黒や金色の風に包まれ消えてゆく。


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