第十二話 動向と非日常の日常




「No.9」
「No.7」
「No.10」
「No.11」
「No.6」
5人は仮面を再びつけながらそれぞれのナンバーを言う。
それに呼応するように巨大な扉が開く。
扉をくぐり真っ白な空間に続く透明な階段をのぼり他のメンバーが待つ部屋へと向かう。
「お疲れ様です」
俺たちが部屋に入って来たのを見て安心したようにねぎらいの言葉をかけきたのはNo.4エアルだ。
優しく穏やかなイメージだが戦うとかなり強い。
「ほーんと。疲れちゃったわよ。」
レイピスが自分の席に着きながら言う。
機関には女のメンバーは二人しかいないのでレイピスとエアルは結構仲がよく、一緒に買い物にいったりもするらしい。
「それでは報告を」
いつもどおりの堅い口調でそう言ったゼロと他のメンバーたちに事の一部始終を報告した。



「やはり裏の者たちも絡んでおったか」
レコルドが深刻な口調で言う。
彼はおそらくこの機関では一番年をとっているであろう。
その年をとっているが故の柔らかさも今は消えかけている。
「しかしこれであちらの機関の人数は12人。我らと同じ数だ。」
良く響く力がこもっているような声で話したのはNo.5ブリーク。
かなりがっちりとした体格をしている武闘派で、肉弾戦を主としている。
「気になるのはそのトゥリトスという男が最期に出したという影だ。おそらく普通の魔物ではないだろう。だが、今何より問題なのは裏の者たちの動きだ。話を 聞く限りだとやはり目的は我々の抹殺だろう。ということは必ずその理由となる何らかの目的があるはずだ。情報が少ない今はとりあえず警戒を続けることしか できない。今後ともやつらの動きに気を配るように。」
「ゼロ。ひとつ気になることがあるのじゃが」
レコルドの口調はかなり思いつめた風だ。
できれば口にしたくない、そんな意思が感じられる。
「さっきいっておったトゥリトスの影を作り出した術式。まさか堕ちたる力では・・・」
「それは考えたがあれはもうとっくの昔に滅びている・・・しかし一応念のため調査をしておいた方がいいな。もし堕ちたる力となればかなり厄介だ。レコル ド、フォーレ、解散の後準備をしてからヴィオたちが襲われた道路を調査する。」
「了承した。そのほうがよいじゃろう」
「了解」
「おい、じじぃなんだよその堕ちたる力って。」
ウィストがたずねる。
それに対してレコルドはじじぃ呼ばわりされても冷静に答えた。
「ある大昔に滅びた邪悪な力じゃ。このことはできるなら知らぬほうがよい。」
「なんだよ。そこまで言われるときになるじゃねえか」
「落ち着けウィスト。もし何か調査でわかったらそのときに全てを説明する。他に何かあるものはいないか?それでは解散とする」
何人かのメンバーが消えていく中、ウィストは解散がかかった瞬間に消えたレコルドにまだ文句を言い続ける。
「ちっ、なんだよくそ爺が。教えてくれたっていいじゃねーか」
「あんたいつまで文句言ってるのよ」
仮面をはずしたレイピスがウィストの椅子の背もたれにひじを乗せながら言う。
「ガキだな」
いつもの仕返しにとばかりにおもいっきり馬鹿にしたようにいってやる。
「はっ?てめぇーの方がガキだろ」
「そのガキよりも弱いのはどこの誰だろうね?」
「ならここでもう一度勝負だ!!」
「何度やっても変わらないって」
お互いに言い合いながら同時に仮面をはずし立ち上がる。
「こういうところがガキなのよね」
「同感」
二人のつぶやきはもうすでに構えて睨み合っている二人には届いていなかった。
この部屋には、この二人のほかにレイピスとりょうの四人しかいない。
りょうはそのことを確認するとため息をつきながら何かを払うように手を横に振る。
すると、丸く並べられていた椅子たちがその動きに合わせて大きい円形の部屋の壁際まで下がっていく。
「どうぞご勝手に」
そういって二人の観客は椅子と同じように壁際まで下がる。
それを合図に二人は無言のまま一気に間合いをつめ切りかかる。
ウィストの漆黒のナイフとヴィオの漆黒と金色が交叉した剣が交じり合う。
鍔迫り合いをしながら睨みあった後、お互いに強く地面を蹴り、間合いをとる。
ウィストが飛びのきながらナイフを投げ、言う。
「今度は本気でいかせてもらうぜ」
「それはどうも」
飛んでくるナイフを叩き落しながら言い返した。
と、俺の言葉を聞いた瞬間にウィストの顔が獲物を狩る獣のようににやけそして消えた。

来い!!!!
ウィストは瞬間移動と高速移動を多用して戦うスピードタイプの能力者。
連続で瞬間移動を繰り返しながらさまざまな方向からナイフを投げてきたり切りかかってきたりする。
俺はウィストが消えた瞬間に後ろを向き剣を立てる。
するとそこにナイフ鋭い音を立てて当たり、そして落ちて消える。
しばらくの間、いくつもの方向から飛んでくる無数のナイフをそうやって防ぎ続ける。
「おいおい、防ぐだけかよ。それならこれでどうだ」
痺れを切らしたウィストがそういいながら真上に現れそして俺に向かって両腕を伸ばす。
するとそこから何千何万ものナイフが飛び出し、襲い掛かってきた。
よし、かかった!!!
ナイフを防ぎながら構成しておいた式を発動する。
トゥリトスとの勝負のときに使ったのと同じもの。
特定の二箇所をつなぐ術式。
押し寄せるナイフは俺の目の前で式に阻まれ消えてゆく。
消えたナイフはウィストのはるか上でまるで噴水のようにさらに上に向かって噴き出していた。
「どうした?お前こそ配線ミスでもしたか?あんなとこにろに出してどうする?」
ウィストが高笑いをしながらとっびきり馬鹿にしたように言う。
「バーカ!!!!」
はるか上に噴き出すナイフは上空で互いにぶつかり合いながらばらばらにおちてくる。
空間が落ちてくるナイフで埋め尽くされたところでもう一つ仕込んでおいた術式を発動する。
「なっ!?」
ウィストは上から落ちてくるナイフを見て驚いた。
大量のナイフを放出し続けていた手を止める。
「ナイフに式が・・・いつの間に!」
あたりは刀身の周りに文様を浮かべたナイフでいっぱいになる。
ウィストは慌てて出していたナイフを消すがすでに遅い。
ナイフだけが消え、文様は取り残されそして空中で停止する。
次の瞬間に宙に浮かぶ文様が一気に輝く。
ウィストはそのまぶしさに思わず目を覆った。
「クッ・・・!!!」
しかし、ただそれだけで何もおきなかった。
ただ光った。
それだけだった。
「おいおい驚かせやがって」
「ふんっ」
まんまと罠に引っかかった阿呆に思わず笑いながら地面を蹴った。
さっきの接続の術式を通ってウィストの真上から思いっきり切りかかる。
ウィストはそれを平然とした顔で瞬間移動を使いよけようとする。
「なに?そんなバカな!!」
しかし、よけようとしただけで何も変わらない。
ただ目の前に剣が迫ってくる。
ガッ
その剣をぎりぎりのところでナイフで防ぐ。
「てめぇ何しやがった」
「さぁ〜?俺は何もしてないけど?」
俺がしらばっくれていると今発動した術式についてりょうとレイピスが話し始める。
「レイ、今のなに?」
「さぁ。あんなのはおれもみるのは初めてだ。たぶんあいつのオリジナルの式だと・・・たぶん瞬間移動ができなくなったことを考えると空間になにか影響を与 える術式かなんかだと・・・」
「ヴィオのやつ、やるわね」
レイピスが感心して見ている中、俺は何度も剣を振りウィストに切りかかる。
形勢は一気に逆転した。
後ろに押されながら何とかナイフで攻撃を抑えているウィストの足がもつれる。
注意がそれたところで思いっきり強く剣を叩き込みナイフを吹っ飛ばした。
ナイフを飛ばされた勢いでしりもちをついたウィストがあわててナイフを再び出そうとするが間に合わない。
「俺の勝ちだね」
ウィストの目前に剣を突きつける。
「くそっ」
「いやあ、ヴィオ。あんたやっぱりやるわね。」
レイピスが拍手をしながら近づいてくる。
「ウィスト。またあんたの負けねえー」
そのままウィストの横にしゃがみ頭を小突いた。
「うるせー」
そこに再び別の拍手の音が響き渡る。
後ろを振り向こうとするとそこにはNo.1フォーレの顔があった。
隣り合わせに立っていた俺とりょうの肩に腕をかけてたっている。
「喧嘩とは若いねえ御両人。しかしやるじゃねーかヴィオ。空間を固定して干渉できなくする術式だな?しかも即興だろ?まあ不安定で長時間持続はしないみた いだがなかなかおもしろい物を見せてもらった。」
「ちっそれで瞬間移動できなかったのか」
ウィストが苦い顔をして言う。
レイピスもりょうも感心している。
そんなことよりこの人がここにいることに誰か突っ込もうよ。
この場合俺がやるべきなのか?
「なんでこんなところにいるんですか?ていうかいつから見てたんですか?」
「あぁ。さっきまでお前らが襲われた通路の調査やっててな、まだしばらくかかりそうなんで今は休憩中。俺が来たのは大体中盤くらいか?しっかしなんとなく 気配消してきたら誰も気づかなくて面白かったな。今度集会のときにやってみるか。」
なんでここくるのにわざわざ気配消してくるんですか・・・
フォーレはNo.1をやってるだけあって機関でもリーダーのような感じで真面目にしているときはかなり頼れる。
しかし、普段はゆるくてしかも茶目っ気があるというかなんというか、こういったちょっとしたいたずらっぽいことが大好きだ。
たとえば機関の定期集会の時に誰よりも早く来てゼロのイスにブーブークッションを仕込んだりとか。
なんでもその日のために計画を綿密に立てたらしい。
しかしあれは拷問だった。
フォーレの計画によってゼロが一番最後に来てイスに座った瞬間トラップ発動。
フォーレ以外は誰も笑うにも笑えずひたすら腹を震わせて笑いをこらえていた。
ゼロにあんなことをできるのはフォーレぐらいだ。
他にもフォーレの武勇伝は山ほどある。
それでも皆が彼に敬語を使っているのはやはり彼のリーダー性からだろうか。
カランカラン
フォーレの懐から石のような何か落ちる。
「あ。わりぃヴィオ。それ拾ってくれ」
俺がそういわれてそれを拾おうと体をかがめた瞬間だった。
あ、足うごかねえ。
結果俺は見事な大転倒を果たした。
原因は簡単。
フォーレが俺の脚を能力を使って石で固めていたからだ。
俺はすぐそばに転がっている石を見た。
『ハズレ』
おい!!!!!
「そろそろもどるか」
言うより早くフォーレはそそくさと消えてしまった。
「それじゃああたしもこれで」
「ばーか」
二人とも爆笑ながらそういって消えていった。
「りょう」
「なんだ?」
「俺今ものすごく惨めな気分」
「そうか」
「とりあえず、この石砕いてくれない?」
「わかった」
真っ白い部屋で仰向けに寝転がる。
「なありょう」
「なんだ?」
「俺たちって人ころしちゃったんだよな?」
「そういうことになるな。だがあれは仕方なかった。あいつをやらなきゃ俺たちがやられてた。」
確かにそれは事実だ。
だが、だからといって割り切れない部分もある。
いつかはこういうことをしなくてはならないことは機関に入った時からわかっていた事で、実際にこうなる前に覚悟を決めていなければならなかった。
俺は甘かったのかもしれない。
機関に入ってから今まで裏の機関の人間と戦うことがなくて、完全にそのことが頭から抜けていた。
裏の機関が行動をはじめている今、もういい加減覚悟を決めなくてはならない。
俺たちがいる世界はやるかやられるかの世界なんだ。
「俺たちももどるか、ゆう」
「うん」




自分の部屋のベットで仰向けにねっころがる。
そういえば何かを忘れているような・・・
「あっ!!」
そうだ、買い物に行ったときの夢。
いろいろあってすっかり忘れていた。
なぜ仮面があそこに?
あれは夢?それとも現実?


仮面・・・
名前もわからない"あれ"と戦った時の・・・


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