第十五話 7.21委員長暗殺未遂事件とトランプROUND1




「お〜い。ゆ〜う〜」
聞きなれた声が聞こえ後ろを振り返るとあやが死にそうな顔をしている愛夏の手を引いてこっちに歩いてきているところだった。
「おう、あや。おはよう。今日はいつもより遅いじゃん」
いつものあやの基準から言えばもうとっくに来ている時間だ。
「愛夏を起こすのに時間かかっちゃって」
「お〜は〜よぉおおおー」
いつもより少し早く起きただけでここまで死にそうな顔にものだろうか?
「そういや愛夏が時間通りに来れたの久しぶりだな」
「うん。高校に入ってからは初めてだよ。」
「おーい」
後ろからハルが走ってくるその後ろにはりょうがいる。
「な!?」
「大丈夫だよ。遅刻じゃないよ。私が連れてきたの。」
ハルが崩れ落ちてひざをつく直前に綾がいった。
それによってハルはとても微妙な体制になる。
さすが野生児の運動神経といったところだろうか?
膝と手が地面から数センチばかり浮いている状態だ。
まあいくら野生児でも重力を無視できるわけはなく単にりょうがハルの服の襟をつまんでいるだけなのだが。
「最近愛夏どうしたんだ?昨日も時間に間に合ってたよな」
「何よその言い方ー。」
「いや。ただ珍しいこともあるもんだとおもって」
「りょう。あんたぁー」
愛夏がりょうのことをものすごい形相で睨んでいる。
が、手は出ない。
愛夏に動く気力がないのと、りょうがしっかりと愛夏の射程距離より外側にいるからだろう。
獲物を前にして鎖のせいでわずかに届かない猛獣と言ったところか。
「大体、その言い方だとあたしが毎日遅刻しているみたいじゃない」
「・・・・・・」
「・・・・何よこの間は。」
「愛夏?後でちょっとはなししようか?」
あやがいつもよりもずっとずっとかわいい笑顔を浮かべながら言った。
「確か4号車だったよな?」
「あった!よっしゃイッチバ〜ン」
りょうがいったのを聴いた瞬間に急に走り出して、何かと思ったらこれだ。
「今日は皆遅いね」
「みんなきっと荷物の支度とかで遅れてるのよ。こういったことはしかっりしないとねえ」
「愛夏も私が行ったら慌てて支度してたけどね」
再び愛夏に向けられる羨ましいほどのあやの笑顔。
「ギクッまぁ他の皆よりは早くついたわけだし・・・」
「おまえいつも遅刻してるけどな」
「・・・・さぁ、あたし真ん中ね」
「話しそらしたな」
そういいながら愛夏が一番後ろの真ん中、りょうが窓際に座る。
俺がその反対の窓側にすわり、綾が俺の隣、ハルがりょうの隣に座る。
「おっ、愛夏がいる。せっかくのキャンプだから吹雪は勘弁して欲しかったんだが。さすがにこの時期じゃ冬用のキャンプ道具なんて売ってないだろう し・・・」
「何よ委員長」
俺たちのすぐ後に入ってきた委員長こと谷川がなかなか見ることのない困った顔を浮かべて言った。
どうやら愛夏に関しては遅刻してくるよりも時間通りにこられたほうが困るらしい。
「それじゃあ行ってくる。」
「あれ?どこ行くんだ?」
そういって荷物をおいて外に出ようとする委員長をはるが呼び止める。
「冬用のキャンプ用品を買いに行く。」
そういってからとっさに身をかがめた委員長の頭があった位置を輪ゴムがそのあらゆる性質を無視したスピードで飛んでいった。
もちろんどっかの誰かが作り上げた輪ゴムの定理をぶっ壊したのは愛夏だ。
「冗談だよ水瀬。頼むからその両手で構えた輪ゴムをハルのポケットに戻してくれ。」
言われて初めて気づくハルであった。
大体なぜおまえのポケットにそんなにたくさんの輪ゴムが入っていてそのことを愛夏が知ってる?
7.21委員長暗殺未遂事件の後委員長は委員長会議へと向かいバスは再び俺たち以外誰もいなくなる。
「・・・・・・誰も来ないね」
その静かなバスにあやの声が響く。
「もしかして」
そういってカバンからしおりを取り出した。
「今何時?」
「7時50分」
「集合時間8時40分だって」
「・・・・・」
「たしか昨日誰だかが8時集合って行ったよな?」
そういって思い出そうとする。
みんなの頭の中で同時再生される昨日の記憶。


「それじゃあここでね」
「また明日」
「おう」
「遅刻すんなよ〜愛夏。明日8時だからな」
「わかってますよーだ。あんたこそ怪我して行けなくなったりするなよー」


「「「「ハル・・・」」」」
四人同時に声に出す。
その前に気づいたのか本人はとても苦い顔をしている。
「い、いや、その。アハハハ・・・」
乾いた笑い声をあげながら言うハルに愛夏が忍び寄る。
「ちょ、まっ、誰にでも間違えってのはよくあるもので・・・」
「観念しろ」
そういってりょうがハルを羽交い絞めにし、愛夏に向ける。
愛夏は両手を上げ、不敵な笑みを浮かべながらにじりよる。
「そうよ。あきらめなさい」
「やっやめろーーー!!」
ハルの断末魔がバスに響き渡った。

「ブハッくっ苦しぃ〜〜た、たすけて〜ゆう〜」
「ハルよ。君のことは一生忘れない」
「そんなっウヒャッ。もう、もうムリ〜ギブ、ギブ」
簡単に言えばりょうがハルをおさえつけ、それを愛夏がくすぐっているのである。
「はぁ。おもしろ」
愛夏は満足そうに、そしてなぜかちょっとうれしそうにそういうとハルを開放する。
「し、死ぬ・・・」
ハルはプスーと音を立てて燃え尽きる。

「まだ時間あるし、トランプでもしよっか。」
そういってあやがトランプを出す。
「よっしゃ。とりあえず、ババ抜きいこっババ抜き」
「また定番というか、なんともいえないところきたな」
「りょう、あんたババ抜きをなめちゃあいけないよ。」
「そうですか」
「それじゃあ配るね」
そういってそれぞれにカードを配っていく。
「カードはここに」
そういって愛夏がカバンから焼肉用に買った袋がかぶったままの網を取り出した。
「網?おれ、人間は雑食って聞いたことあるけどカードも食えるなんて始めて聞いたな。」
「バカはお黙り!!使えるものは使わないとね」
はるの珍発言に愛夏がカウンターを華麗に入れる。
「さぁいくよ」
愛夏がそういってババ抜きが始まった。



「あがり」
あやが微笑みながら言う。
「強すぎだろ」
りょうがつぶやいた。
「ババ抜きなんて運なんだから強いも何もないだろ〜?」
「甘いなハル。ゆうはきづいてるよな?」
「うん。この二人はレベルが違うな」
そういってあやと愛夏を指差した。
「こいつら表情とか仕草とかその他いろいろで相手のカードを読んでる」
「よくわかったわね、りょう。」
そういって愛夏不適に笑う。
「さぁてハル。もしこの中であたしが上がれるカードがあるとしたら・・・これ!!」
そういってハルの手札からカードを抜くと捨て札の一番上に放り投げる。
「あっがりー」
「おまえたち何者だよ・・・」
ハルが不満そうにつぶやく。
「私たちはよくトランプで遊んでたから」
「あやのお母さんがとんでもなく強くってね」
「それで鍛えられたってわけか・・・」
しかし、それだけでここまでになるものだろうか?
「くっそー絶対勝ってやる〜」
「ハルじゃムリだって」
「私たちは一応手元に来たカードがどこにあるかわかるし」
「どれ、面白いことしてあげよっか?」
そういって二人が恐ろしい笑みを浮かべる。
「これがダイヤの6」
「そんでもってこれがハートのクイーン」
「これがスペードの1で」
「これがダイヤの9」
二人が次々と俺たちの手札を当てていく。
「それでジョーカーが」
「「ハルの右から二番目」」
ポトリ
ハルが言われたカードを落とすとそれは確かにジョーカーだった。
男3人が唖然とする。
「ありえないって・・・くそっもう一回!!」
「何回やっても同じだって」
ハルは珍しく運動以外で燃え上がり、それを愛夏が女王のごとく見下ろす。
こう見えてハルは意外と負けず嫌いなのであった。


その後、ババ抜きを数十回繰り返した。
そうしているうちに他のクラスメイトも少しづつバスに乗ってきた。
結局、バスが動き出すまでババ抜きを続け、俺たち男3人は必ず下から3番以内で1位はあやと愛夏で半々といったような結果だった。
「くそっ・・・」
「他のゲームにしよっか?なにがいい?」
あやが問いかける。
「それじゃあここはやっぱり大富豪といこうか」
結構定番なゲームだろう。
それにこれなら俺もそこそこ強い。
「げっ」
「どうしたハル?」
りょうが突然俯いたハルの顔を覗き込む。
「俺これ無茶苦茶弱い・・・」
「やっぱりね。あたしたちで鍛えてあげるよ。」
愛夏があやの肩を抱いて不敵な笑みを浮かべる。
「それじゃあはじめるか」

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