第十七話 釜戸と割箸
ただいまの時刻、午前11時ちょうど。
「昼ごはんの支度しないとな。それじゃあまた後で。行くぞ双子」
「「はーい」」
そういって委員長が二人を従えてコテージから出て行った。
「俺達も行くか」
広場ではみんながそれぞれサッカーや野球等をやっている。
その広場の芝生とコテージがある森の境目には芝生が生えていない部分がある。
そこか、もしくは奥にあるもう一つの広場で調理をすることになっている。
俺たちは森と広場の境目の水道に近い場所に陣取っていた。
「あっきた。おっそいぞー」
少しはなれたところで愛夏が手をふっている。
「もう材料は持ってきたから。」
「男どもは石積み上げてかまど作って薪持ってきて火をおこしといて。あたし達は材料切って米磨いでくるから。」
「了解しました!!!さぁゆう、りょう。薪を持ってきなさい。」
「お前も来い」
りょうが偉そうにそういったハルの服の襟をつまんで引きずっていく。
俺は石を集めてかまどを作ることにした。
そこらへんの石を組んでかまどを2つ作る。
「上出来」
できたかまどに鍋を乗っけてみて言う。
この安定感といいきれいな形状といいまさに完璧だ。
この微妙なラインはなんともいえない。
あまりに美しくできた眺めていると、薪をもったりょうとハルが向こうからやってくる。
「おーもーいー」
そういいながらハルが持ってきた薪をドサッと投げる。
かまどに向かって。
完璧なかまどは阿呆の一撃により見事に崩れ落ちる。
それをみてハルは苦いものを口にしたような顔をした。
その原因は、正確には崩れ落ちるかまどを見たことではなく、俺のほうを向いたことかもしれない。
「 俺達の班がつくるのはキャンプの定番、カレーなんだ。」
「アハハハ・・・ゆ、ゆう。それは誰に向かって説明しているのかなあ?」
「おまえもカレーの材料にしてやろうか?」
「おっ準備できてるね〜」
そういいながら材料の入った鍋をもってあやと愛夏がやってくる。
「ちっ。邪魔が入ったか。」
ぼそっとつぶやく。
「あれ?どうしたのゆう。そんなに怖い顔して。まあいっか。それじゃあつくろうか。」
「ほら、火おこして。ん?この無残なかまどの残骸は何なの?」
「どっかの馬鹿が破壊した。」
「やっぱりね。ほら、あんた。さっさと直しなさい!!」
「え〜あっちぃ〜りょう、ゆう、よろしく!」
そういいながらハルは近くの木陰にダラッと仰向けになった。
ブスッ ブスッ
横になっているハルの頭の両側に割箸がありえない速度で飛んで行き着き刺さる。
「な、なんすか!?」
危うく死因が割箸になりそうだったハルは驚きと恐怖でピクピク痙攣している。
「かまど・・・直そうか?」
もちろん割箸を投げたのは俺だ。
さすがにウィストほどではないがこれくらいなら俺にもできる。
「はい!!喜んで直させていただきます!!!」
結局ハルは自分の宣言したとおりかまどだけ直して再び木陰に戻っていってしまった。
こうなったら後でたっぷりこき使ってやる。
そう心に決めてからマッチと油で火をつける。
「よし」
「こっちもいいぞ」
「そんじゃあ男共は火に薪をくべて。」
「わかった」
これ無茶苦茶あっついんだよな・・・
それぞれ作業を分担し、俺が火を見ているかまどではあやがカレーを、りょうのほうでは愛夏がご飯を炊いている。
りょうたちのほうを見ると。
「ほらりょう。火が強い!焦げちゃうじゃない!!」
「こうか?」
「それじゃあ弱すぎるわよ。あんたおかゆが食べたいの!?」
「こうか?」
「それじゃあさっきと変わらないじゃない!!」
・・・大変そうだ。
こっちはあやでよかった。
というか、ああ見えて意外とりょうは不器用だったりする。
「よし、完成!」
あやが味を見て満足そうにいう。
「こっちもオッケ〜」
ヘトヘトの汗だくになったりょうと愛夏が言う。
「おっ飯か」
ハルがのそっと起き上がりながら言う。
「ハ〜ル〜!!あんた覚悟しなさいよ?」
「まぁまぁ。」
そういって硬いコブシを握り締める愛夏をあやがなだめる。
「ハルが全部自分が片つけるって言ってるから、私達は先に遊びにいっててもいいって。ね?ハル?」
あやが、穏やかだけど相手に有無を言わせない不敵な笑みを向けて言う。
「まぁそれなら仕方ないわね。」
そういって愛夏も不敵な笑みを浮かべる。
「えぇ!?そんなこと言ってないって〜」
「あきらめろハル。おまえに拒否権はない。」
りょうが観念しろとでも言うようにハルの肩に手を置く。
「それじゃあ、がんばってねハル。」
今回ばかりはあやもかばったりはしない。
「そんなぁ〜」
まぁ仕方ない。
寝ていたハルが悪いのは明らかだしこの状況を止めようとするやつがいないのも明らかだ。
かなりよい出来だったカレーを食べ終わりみんなが皿や鍋などをまとめる。
「さぁハル。がんばって。」
そういってそれをハルに渡した。
数はそんなに多くはないがカレーとご飯の鍋はかなり厄介だ。
「しゃーねーな・・・」
ハルがとぼとぼと洗い場へと向かっていった。
「あたしたちは先に海に行ってるから〜」
そのハルに追い討ちをかけるように愛夏が言う。
「容赦ないな。まっ、今回ばかりは仕方ないか。」
「そうよ。さっ行こっ」
その後いったんコテージに戻り支度をして海へと向かった。
「あれ?愛夏は?」
待ち合わせをしていた浜辺には愛夏の姿はなく、あやが一人で待っていた。
「トイレ寄ってくから先に泳いでてって。」
よくわからないがあやがなぜかにこにこしている。
「ふーん・・・まぁいっか。」
それからしばらくして愛夏がやってきた。
「おまたせーなにする?」
「とりあえずハルが来るまでのんびりしてるか。」
そういってハルが来るまでゴーグルを付けてもぐったり泳いだりしたのだった。
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