第二十五話 不安
五人が横になっている地面に文様が広がる。
俺とりょうはその光景に驚き体を起こした。
「どうしたんだ二人とも?」
ハルが突然起き上がって辺りを見回している俺たちに声をかける。
大丈夫だ、発動する前にこれをとめることができれば問題はない。
そう自分に言い聞かせながら術式に抵抗するために意識を集中する。
そもそも力にかかわるものは能力者にしか見えない。
「うわなんだこれ!?」
・・・はずだった
地面に不気味に浮かび上がる線を見てハルは飛び上がった。
あやと愛夏も驚いた声を上げる。
「なぜだ!?」
りょうはその三人に驚き声を上げる。
俺にもさっぱりわからない。
この文様はあやたちには見えないはずだし、能力に目覚めるようなこともしていない。
一体なんで!?
三人の予想外の反応に驚いていた俺は式に抵抗するタイミングを完全に逃してしまった。
式の発動に合わせて漆黒の空間がさっきまで横になっていた俺たちの中心、文様の中心から広がる。
「くそっ!!!空間移動か!!!」
よりによってこの状況で一番最悪の術式だ。
あたりは漆黒の空間に飲み込まれていった。
その中で普通の空間移動とは違う、まるで無理やり引っ張り込まれるような違和感を感じた。
それは平穏な日常から数秒後の出来事だった。
「ゆう?」
微かに震え、不安そうに聞いてくるあやに自分の不安を抑えながらできる限りやさしく確かめるように言った。
「大丈夫だから・・・」
「・・・うん」
「ここはいったい何なのよ?」
「それになんか気持ち悪い変な感じがしないか?」
りょうのほうを見ると、こちらを向いて何かを確信したようにうなづいてきた。
俺もハルの言葉で確信した。
「三人とも。」
「あぁ、間違いないだろう。どっちにしてもこの空間移動のあとで何も起こらないはずがない。」
「ちょっと。あんたたち二人ともさっきからなに話してるのよ。それになんでそんなに落ち着いていられるの?何か知ってるの?」
不安になっているせいか少し強い口調で愛夏が言う。
三人とも相当動揺しているみたいだ。
俺やりょうでもこれほどなのだから、何も知らない三人がいきなりこんなめ目にあえば当然の反応だろう。
あたりは暗いが静かで危険は特に感じられない。
こうなった以上は三人に全てを話したほうがいいだろう。
しばらく考えた後、ちらりとりょうのほうを見てりょうの同意を得てから口を開いた。
りょうと二人で交互にこの世界のこと、能力のことを説明して言った。
「そんなこと急にいわれてもわけわかんないっての」
「確かに愛夏いうとおりかもしれない。だけどこの話を聞いてさっきハルもさっき言ってたような『違和感』も消えたはずだ。人は能力に目覚めてもそれを脳が
理解しきれず、それが違和感となって現れる。だが、こうやって能力についてのことを聞くことによって脳が力の存在を理解し認識して、違和感も消える。」
りょうが説明する。
「でも・・・」
まだ納得がいかないという風にあやがつぶやく。
さすがに口で説明するにも限界があるか。
「まぁりょう、三人に力に触れさせてみるのが一番手っ取り早いと思う。」
「それもそうか」
「とりあえずどの力を使えるかを確かめるかな」
力を増幅させる術式を構築する。
この術式を使えば力をかなりの量まで増やせるが、制御できる範囲を簡単に超えてしまうので実戦ではまず使えない。
実践で使った瞬間に文字通り消えてしまうだろう。
「まとめてやるかな。りょう、一応力の制御を頼む。」
「わかった。」
構築した式を展開する。
前に出した手を中心に三つの模様が浮かび上がった。
そしてその周りにりょうが力を制御するための式が浮かび上がる。
「楽にしてそれぞれこの模様に触って。」
三人が戸惑いながらもそれぞれ模様に触れた。
すると三人の模様に触れた手がそれぞれの色に光りだす。
ハルの手は金色に。
愛夏の手は漆黒に。
あやの手は白銀に輝いていた。
「ゆう!!力が大きすぎる!!このままじゃ抑えきれなくなる!!!!」
「まさか!!!」
あわてて式を止めた。
いくら三人同時とは言えまだ目覚めたばかりなのにりょうが抑えきれないほどの力になるとは・・・
もしかしたらこの三人はかなり強力な能力者なのかもしれない。
「ふぅ。ハルは光、愛夏は闇、あやは虚無の能力者か。」
「使い方はどうする?感覚だけ流し込むか?」
「本当はあまりよくないけど今は時間もないしそのほうがいいな」
再び式を構築する。
今度は簡単な感覚を流し込む術式だ。
「能力を扱う中で一番大切なのは感覚で、感覚さえつかめればすぐに扱えるようになるんだけど。今からその感覚を流し込む。まず愛夏はこっち、ハルはりょう
のところに立って」
「いくぞ」
その掛け声と同時にいつも闇の力を使っているところをイメージする。
そのイメージが体から溢れ出るのを感じる。
そのイメージが流れとなって展開した式を伝いその中心に立つ愛夏へと向かっていく。
イメージが完全に流れきると式が自然に消えた。
「感覚は扱う基本能力によって微妙に違ってくる。」
ハルに感覚を流し終わったりょうがいった。
「りょうは光の力を操るのがうまいからハルをりょうに頼んだ。それに闇の力はりょうは使えないからな。それじゃああや、こっちに。」
今度はあやが俺の前に立つ。
「虚無の力ってのは光や闇とは違って少し特殊な力で扱うのも難しいけどちゃんと扱えればかなり強力な力だから。」
そう言ってから式を発動した。
「これで一応みんなそれなりには力を扱えるようになったと思うけど。」
ふと、りょうが片手を前に差し出した。
そこに一羽の光る鳥が現れる。
が、その鳥はすぐに消えてしまった。
「だめだ、ここからだと機関に連絡できないらしい。」
「まあ、あれだけ大掛かりな術が発動すればゼロが気付くと思うんだけど・・・それにしてもここは一体どこなんだよ」
辺りを見回してみても黒い空間がひたすら続くだけで何もない。
物も地平線もなければほかに誰かがいる気配もない。
「魔物も襲ってこないし何もないな。とりあえず進んでみるか?」
「そうするか。」
そういって五人は歩き出した。
歩き出して数歩進んだそのとき。
前に出した足は地面にたどり着けず、そのままバランスを崩してしまう。
「な!?」
「っ!?」
「へ?」
「うわっ」
「キャッ」
五人は落ちていった。
しかし、一瞬の落下の後すぐにまた足が地面につく。
そこは石畳の床に石柱が立ち並ぶ暗い宮殿のような神殿のような場所だった。
上を見上げると天井がなく壁と柱がどこまでも続いていた。
「こんどは、どこだよ?」
ハルがもうたくさんだという風につぶやく。
「ここは見ての通り神殿だよ。」
辺りを見回していると、突然俺達5人のものではない幼い冷たい声が石柱の間に響いた。
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