第二十六話 打ち破られた絶対
石柱が並ぶ向こう側から小さな影がゆっくりと歩いてきた。
身長は丁度俺のみぞおちほどだろうか。
その背丈よりずっと長い丈の黒いマントをかぶっていて大きすぎるそのマントの端を床に引きずっている。
「ようこそ。」
少し離れたところで足を止め目深にかぶっていたフードを上げる。
その顔はやはり声や身長どおりに幼いものだった。
しかし、その幼い声や容姿からは想像できないほどの威圧感を持っていた。
「お前は誰だ?」
この状況に皆が沈黙するなか、ギリギリの均衡を保っている空気を壊さないよう注意しているかのようにりょうが静かに言った。
「何者でもない。ただそこに存在して力を求めているものだよ。」
返ってきたのはよくわからない答えだった。
力を求めるということは堕ちたる者なのだろうか?
だが今の言葉には何かほかの意味があるようにも思える。
「とりあえず君以外の四人はいらないから消えてちょうだい。」
そういって俺のことを指差す。
この場を保っていた空気はあっけなく一瞬で崩れ落ちてしまった。
子供の背後から淀んだ漆黒の弾が四人に向かって飛んでいく。
「よけろ!!」
後ろにいる三人に叫ぶ。
それと同時に三人に襲いかかる弾を何とかしようと三人に向かって走りだすが当然間に合わない。
りょうは自分のハイマを出して弾を弾き飛ばして防いだが、三人は何もできずにただ顔を両腕で覆うしかできない。
「危ないな」
太く低い声が鳴り響くと共に弾が弾ける音がする。
弾が今まさに襲いかかろうとしていた三人の前には黒いコートをきた大柄の男、ブリークが立っていた。
ブリークは両手につけた流星のようなナックルで三つの弾を一瞬にして弾いていた。
彼のハイマはグローブのような手にはめる直径三、四十センチほどの濃藍色の金属の塊だ。
まるで落ちていく隕石のような形で、金属はブリークのひじの部分まで流れるように続いている。
「間に合ったか。」
ゼロの声がして振り返ると他の機関のメンバーも次々と神殿の中に現れていた。
「みんな!?なんで全員が?」
今まで機関の全員が動くということはなかった。
これは相当な事態だということになる。
「はじめはまた数人送るつもりだったのだが。詳しく調べてみると移動に使われた式には異常なほどの強さの力が使われていたことがわかり、さらに普通の空間
ではない場所に送られたと言う事もわかった。これらのことからお前達がかなり危険状況だと判断し全員で来た。お前は誰だ?そしてこの空間は一体なんだ?」
「あぁ〜。片付けなきゃいけないゴミがふえちゃったな。さっきもこいつらにいったけど僕は何者でもない、力を求めその力を得るためだけに存在するものだ
よ。力を求める者とでも呼んでくれればいいよ。あと何回も呼べないだろうけどね。ここは・・・そうだね「失われたもうひとつの空間」とでもいおうかな。も
うおしゃべりはいいよね?僕もういい加減に飽きてきたんだけど。」
喋っている間から続いていた力を求める物の馬鹿にするようなニヤニヤとした笑いをピシャリと止めるようにゼロが言った。
「私がやろう。」
そういった次の瞬間には力を求める者の目の前に姿勢を低くして腕を横に振りかぶった状態で現れた。
振りかぶる右手の周りからは透明の剣を持っているかのように歪んで見える。
ゼロの特殊能力は「空間」だった。
空間を自由に操り空間の力を使って戦う。
それは俺なんかでは到底敵わないような絶対的な力だった。
その刀が力を求める者に向かって振りきられる。
光のように速く振られた刀を何事も無かったかのように軽く交わしゼロの頭上に舞い上がる。
ゼロがすかさず手を上にかざすと空中を逆さに浮いている力を求める者に向かって無数の刃が交差するように上へと伸びていく。
「面白い力を使うんだね・・・」
「ぐっ!?」
「・・・でも僕の力のほうが絶対的だよ。」
ゼロの驚きが混じった低いうなり声が鳴る。
ゼロの胸には剣が突き刺さっていた。
時が止まったようだった。
周りにいる皆もただ目を見開いている。
それはこの場にいる誰にも予想できないようなことだった。
絶対的なゼロの空間の支配をその子供はいとも簡単に打ち破って瞬間移動を使い、ゼロの懐に入り込みその心臓に剣を突き立てていた。
胸の剣が突き刺さった部分を中心に体が侵食されていくかのように消えていく。
子供は剣を抜くと胸倉をつかみ力なく仰向けに倒れているゼロの上半身を起こす。
「ザーコ」
冷たく嘲笑うかのような目つきと無邪気な声で俺たち全員に聞かせるかのように言った。
そして、その胸倉をつかんだ手が爆発を起こしゼロがこちら側に吹っ飛んでくる。
ゼロは俺たちが立ち並ぶ中に仰向けで倒れた。
自信や安心であり俺たちが信じ続けてきた絶対的な存在であるゼロは胸に穴を開け、仮面を吹き飛ばされた無残な姿で倒れていた。
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