第二十八話 力を求める者
「さて、ただここで待たせているのも悪いから君たちには遊び相手を用意してあげるよ。」
そういうと無数の影が現れた。
「あのときのと同じものですか。面倒ですね。ラズ、少しはやるきにはなりませんか?」
ワイズが半ばあきらめながらも頼むようにラズと呼ばれる男に聞いた。
No.8ラズ。普段はまったくと言っていいほど動かないし言葉も発しないが、本気になるととんでもなく強い。
「・・・めんどうだな・・・」
「お前そんなこと言ってる場合か!?」
ウィストがラズの胸倉をつかみ怒鳴る。
それでもラズはピクリとも動じない。
「文句を言っている暇があるなら一匹でも多く切れ」
淡々とした口調でNo.2レウルが言う。
手には彼のハイマである長い刀が握られていた。
「仕方ないね・・・」
さすがのラズもこの状況は危険と判断したらしく、黙って自分の巨大なハイマを取り出した。
巨大な斧と大剣がヌンチャクのように鎖でつながれている。
それをブンと一振りすると辺りにいた影は真っ二つになって消えていく。
「あなたの目的はいったい何なのですか!?」
皆が影の大軍と戦う中で、ワイズが求める者に言った。
それに対してて求める者は至極当然のことのように答えた。
「何事にも勝る力がほしいんだよ。この世界では力がすべてだ。はじめにい言ったよね?僕はただそこにあって力を求めるものだと。力がほしいんだよ力 が!!」
「あなたはそれだけのためにここまでのことをするのですか。」
愚かだと、ワイズは最後にそう付け加えた。
それは彼の本当の心からの呟きだった。
それを聞いたものは愚か者を嘲るかのように笑って言った。
「力を求めなくなった時点ですべての生物はそこでおしまいだよ。それがわからないなら愚かなのは君のほうだね。」
「その思考は理解しかねますね。力を求めるのはあくまで結果へといたる過程であってそれが結果であってはならない。」
「まぁ好きなように言葉を並べればいいよ。せいぜいがんばってね。フフ・・・」
不敵な笑みを浮かべて求めるものは消えていった。
孤島に子供が一人現れる。
「あれ?またごみもついてきちゃったな。まぁエサにはなるか。」
孤島の真ん中に立つ子供の体からブリークやフォーレを捕らえたのと同じ黒い物体があふれ出す。
それが三人に向かって襲い掛かる。
「おまえ!!!」
精一杯の力をこめて子供と三人の間に壁を作り出した。
しかし全力をこめて作った壁もパリンというむなしい音とともに砕け散り、鋭くとがった黒い先端が三人に突き刺さる。
「ゆ・・う・・・」
あやが声を漏らす。
その瞬間が永遠に感じられた。
だが俺はその永遠の時間に何もできない。
「あや!!はる、あいか!!」
手を伸ばす。
しかし届かない。
三人の体は突き刺さった黒に飲み込まれていく。
そしてそのよどんだ黒い色が全身を飲み込んだ瞬間に粉々に砕け散ってしまった。
砂のように細かくなり霧散したかけらがやっと届いたその指の間をすり抜けて消えていく。
全身から力がぬける。
ショックで視界が遠くなっていき、頭がガンガンと痛み吐き気もする。
何も考えられない。
「あや・・・はる・・・あいか・・・」
視界が暗闇に落ちていく。
俺は扉の前に立っていた。
あの扉だ。
もうあきらめるのですか?
あきらめる?何を言っているんだ。
もう俺にあきらめるようなものは残されていない。
みんな消えてしまった。
皆はまだ消えてませんよ
あなたに力があれば
あなたの力を引き出すことができれば
まだ、あなたを絶望の淵から救うことができる
俺の・・・力?
そうです
でも忘れてはいけません
己を鍛えることは許されても力を求めることは罪です
そして、その罪が破滅を助けることになる可能性もあります
それでもあなたは力を求めますか?
開け放たれた扉からは無数の鎖が伸びている。
一番近くにある一つに触れると鎖ははじけて切れて消えた。
鎖へと触れながら扉へと近づいていく。
鎖がはじけるたびに扉から波動が出る。
その波動は一本ごとにどんどん強くなっていった。
俺の力・・・
・・・俺は、例えそういうことになっても力がほしい
みんなとの未来が欲しい
扉の中へと足を踏み入れる。
その瞬間残りの鎖がすべてはじけ、巨大な波動が広がる。
力が
こいつを倒さないと
本当に全部失ってしまう
こいつは絶対に倒す
何があっても
こいつが憎い
怒りがこみ上げてくる
こいつはすべてを奪おうとしている
こいつはすべてを壊そうと・・・
久遠結はふらふらと立ち上がった。
やはりあなたは求めてしまうのですか
確かにあなたの性質は力を求める部分が大きい
何事においてもまず最初に力を求めてしまう
罪を犯してまで手に入れた未来は脆いものだというのに
あなたはその未来の崩壊を防ぐためにまた罪を重ねるというのですか?
あなたはあと何回無意識の罪を重ねてしまうのですか?
TOP
NEXT
BACK