第三話 異変



放課後。
六時限目のキャンプの説明も終わりやっと一日が終わった。
俺たち5人はキャンプ前日の日曜日に必要なものを買ったり何を持っていくかを決めることにした。
今回のキャンプはすべてが自由でだ。
炊事も自由に班を作り自分たちで材料を持っていき好きなものを作ることになっている。
さすがに寝るときまで5人一緒はいろいろとまずいということでコテージの班は2つに分かれているがそれ以外は全部5人一緒だ。

「ゆう。それじゃあね〜」

「またねー」

そういってあやと愛夏は委員会に向かった。
二人は委員会も同じものに入っている。

「それじゃ。俺は先に行ってる。」

「わかった。」

りょうが先に教室を出て行く。
俺も急いで道具をカバンに詰め込む。
ふと、顔を上げるとハルは机に座って腕を組みながら教科書を一生懸命にらんでいた。

「あれ?おまえは帰らないのか?」


「おれ数学の追試あるから」

「お前一体いくつ追試あるんだよ」

ほんとにハルらしいというか。
そういえばこいつ昼休みも世界史の追試にいってたっけ。

「まぁがんばれよ。それじゃあ日曜日に。わすれるなよ?」

「愛夏じゃないんだからだいじょうぶだって」

たしかに愛夏にいうべきだったかもしれない。
でもさすがに今回ばかりはそれはないだろう。
あいつ日曜日の買い物楽しみにしてたし。
教科書をにらみ続けるハルをおいて玄関へと向かい靴を履き替え表へ出る。
校門のほうに目をやるとりょうが壁に寄りかかって立っていた。

「機関の招集がかかってる」

りょうは俺と同じ能力者で表の機関に所属していてナンバーは11だ。
光と虚無の能力者で中学校のときに機関に入った。

「やっぱりか。最近なんか変だと思ってたんだけど・・・ここからだとやっぱあの公園が一番近くて人目に付かないか」

「あぁ」

俺たちは公園に向かった。
住宅地の隅っこにある小さな公園。
名前もなく廃れていて遊具もほとんどない空き地と変わらないような場所で、ブランコと何本かの木があるだけだ。
その木陰に入って言う。

「よしここならいいか。いくぞりょう。」

風が正面からまとわりつくように吹いてくる。
その風は体にあったたところで黒い煙のようになりそのまま後ろに流れていきもとの風にもどっていく。
りょうの周りでは風は金色になった。
そのまま俺は黒、りょうは金の煙のようなものに包まれていく。
風が止んで煙が消えると二人は黒コートの姿で立っていた。
そして次の瞬間にはそこには誰もいなくなり風だけが残っていた。

大きな白い扉の前に立っている。
何にもない真っ暗な空間にただ巨大な扉があった。
この扉を見るとなんとなく夢で見る扉を思い出した。

「No.10」

「No.11」

それぞれの番号を言う。
すると扉がちょうど人一人通れるくらいにひらいた。
おくには扉がある空間とは対照的に何もない真っ白な空間があり透明なガラスのような階段が続いていた。
階段を上ったところには丸い部屋があり大きめのいすが丸く並んでいる。
天井がとても高くかなり広い部屋だ。

「おっせーぞ、お前らどれだけ待たせるんだよ」

「俺たちは学校があるんだ仕方ないだろ」

「へっ所詮はガキか」

「そのガキに勝てなかったのはどこの誰かしら?」

「うるさいレイピス。あの時は油断しただけだ」

「なにが油断だ。あれだけ真剣な顔でかかってきておいて。」

「ほらゆう。いいから座るぞ」

いきなり文句をつけてきたのはNo.9ウィスト。
いつも何かと俺に突っかかってくる。
No.7のレイピスはいつもまるでお目付け役というか姉のようにそのウィストをおさえている。
落ち着きのない犬とその飼い主といった感じだ。
機関ではりょうはレイ、俺はヴィオとよばれている。
ちなみに俺とりょうは機関でも普通にもとの名前で呼び合っている。
全員が席に着いたのを確認すると一番奥に座っているNo.0ゼロが言った。

「全員そろったか。最近空間の歪みがあちこちで見られている。それと、裏の機関が不審な動きをしている。もしかしたら空間の歪みと何か関係があるかもしれ ない。裏の動きには注意す
るように。ウィストの話では空間の歪みから今までに確認されていない魔物が現れたそうだ。特別強いというわけではなかったようだ が、今はどんな魔物が現れるかわからない。危険だと判断したらすぐに連絡し応援を求めるように。何かがあったり、もしくはその兆候が見られたらまたすぐに 集会を開く。各自何があってもすぐに対応できるようにしておけ。以上だ。」

魔物というのはいろいろな特殊な生き物の総称で獣みたいなのから人間と差がないようなやつまでさまざまで、皆それぞれ普通の動物とは違う特殊な力を持って いる。
魔物は有害なものばかりではないが中には能力者を襲ってその能力を喰らったり普通の人間を殺して生きているのもいる。
ゼロ(No.0)が話し終わるとメンバーはそれぞれ消えていった。
機関の能力者はこの部屋から瞬間移動で自由に出入りすることができる。
ただし出るのは自由だが直接部屋には入ることができず一回扉の前に移動してから入ってこないとだめだ。

「俺たちももどるか」

「そうだな」



さっきの公園。
俺は近くの木に寄りかかり、りょうに話しかける。

「空間の歪みに裏の機関。めんどくさくなってきたな。」

「たしかにな・・・裏の機関はいったい何がしたいんだか。」

「ほんとに良くわからないやつらだよな。目的とかさっぱりわからないし。そもそも直接会ったこともないよな?」

「そういえばそうだな。会わないに越したことはないんだがな。それじゃあな、ゆう。」

「おう」

りょうが公園を出て行くのを見送る。
しばらく木に寄りかかったままじっとしていた。

「やっぱり気のせいじゃなかったのか・・・」

公園の真ん中がゆがんでいく・・・
やがて黒い穴のようになった。
そこから今までみたことのないよう魔物が何匹か出てきた。
手前の3匹はフェイダーか。
フェイダーは人の記憶や思いから生まれ、自分が生まれたものと同じ思い、感情を食べて生きる。
この世界ではかなり多い魔物だが大抵はほとんど害はない。
ほっとけば勝手に消滅する。
しかし、強いマイナスの思いや記憶などから生まれたフェイダーは能力者を襲い能力を食べて生き続けようとする。

「なんなんだいったい・・・」

このフェイダーはいままでみたことのないものだった。
フェイダーは普通はっきりとした形を持っていない。
しかしこいつは四足の獣のような姿をしていて、はっきりとした形を持っている。
一番の特徴である簡単な顔の描かれたのぺっとした仮面をつけていなければフェイダーだとわからなかった。
その仮面に描かれた顔は苦痛で歪んでいるようにも怒りで歪んでいるようにも見える。
きっと相当な想いから生まれたのだろう。
そして一番気になるのは奥にいる黒いやつ。
まるで影のようだ。
俺は顔を手で覆うようにする。
すると白い仮面が現れ、それをつける。
とりあえず手前のやつらだ。

シュパッ シュパッ シュパッ

軽く手をかざすとフェイダーに光の槍が突き刺ささる。
動いていない相手は一瞬でしとめれる。
おれの特殊能力だ。
どういうものかはよくわからないが普通の能力者にはできない。
能力は自分から一定以上はなれたところに発現させることができない。

フェイダーはだんだん薄くなり消えていく。
残るは影のほうだ。
影はフェイダーが消えると同時にだんだんと大きくなっていき、そしてさっきのフェイダーと同じ形になった。
しかし、さっきのやつらよりも明らかにでかいし強い。
同じように一瞬でしとめようとするが、現れた槍はズレて砕け散ってしまう。

「さすがにそう簡単にはいかないか・・・」

右手に金色の、左手には漆黒の刃を出す。
少し対峙して様子を見る。
相手もこちらの様子を窺っているようだ。
俺は予備動作なく最速で間合いを詰めて金の刃を影に振り下ろした。
速いっ
影は一瞬で俺の後ろに回りこんだ。
それは俺の動作よりも何倍もすばやい動きだった。
とっさにもう片方の刃で影の振り下ろしてきた爪を防ぐ。
そのまま懐にもぐりこみ思いっきり切り上げた。
影は真っ二つになる。
念のために地面を思いっきり蹴り後ろへ飛び退きある程度の距離をとった。

「本当に何なんだよこいつ、普通もう消えるだろ」

真っ二つにしたはずの影がスライムのようにまた1つにもどっていく。

「仕方ない・・・」

構えを解き、二つの刃を消す。
そして、影に向かって右手を突き出した。
手のひらから影にむかって光の風が吹く。
風はだんだんとはっきりしていきひとつの大きな光の塊となった。
手からはどんどん光が流れ出る。
極太ビームのような感じだ。
影は光の中でだんだんと薄くなり消えていった。

「なんだったんだろ」

大量の能力を放出したせいでドッと疲れが押し寄せてくる。
薄暗くなった公園は再び元通り静まり返っていた。

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