第四話 空間と煮物によるハイテンション



鍵をあけてあの公園のように静まり返っている家に入った。
明かりをつけ、二階の自分の部屋へと上がっていく。

「とりあえずゼロには連絡しておくか・・・」

両手を前に出し、力を集中しながらさっきの記憶を呼び起こす。
両手の間にはぼんやりとした光の玉ができあがる。
その玉はだんだんとはっきりとしていき鳥の形になった。
その光り輝く鳥を部屋の窓から放つ。
だんだんと小さくなっていく光を見守った。
機関の報告はたいていこの方法で行う。
報告したい事柄や記憶を鳥の形にして飛ばす。

しかし、今日は珍しい。
大抵ゼロはいつも俺たちがいる空間とは別の空間にいる。
だから鳥はいつも放してすぐにだんだんと姿が薄くなっていき、ゼロがいるのと同じ空間に入ってから移動する。
今回鳥がそのまま飛び立ったということはゼロはいま俺がいるのと同じ空間にいるのだろうか。

空間というのは大きく分けて7つある。
空間一つ一つは層のようになっていてその7つの空間の層が重なるようになって存在する。
一番下にあるものから順に第1層と呼ばれている。
「下」という表現は間違っているのかもしれないがそれしか表現のしようがないから仕方がない。
俺たちがいるのは第4層で、第5層は何万年も前の地球のように木がうっそうと生い茂りたくさんの魔物たちが暮らしている。
第3層は大昔は俺たちが今暮らしている空間のようだったが何か大きな事件が起きたせいで今は廃れてしまってしまい生物はほとんど暮らしていないといわれて いる。
その大きな事件とは何なのかは今もわかっていない。
第2層より下と第6層より上の層については詳しいことはわかっておらず、ただ存在するということだけがわかっている。
それは第2層や第6層より先に行くことができないからで、実際第3層や第5層に行くのもかなり難しい。
また、空間はこの7つ以外にも欠片のようなものが層と層の間に無数に存在し、本当に小さいものから欠片とは思えないほど大きなものまである。
機関の集会などを行っているのは第4層と第5層の間にある欠片の空間である。

「さて。」

とりあえず飯を食うか。
今日はさっきので大分疲れたしカップ麺でいいや。
先に風呂のお湯いれておこうか。
しかしなんというか、一人ですむにはこの家もでかすぎるよなーなんて最近になって思う。
お風呂にお湯をいれてもどろうとすると・・・

ピーンポーーン

誰だよこんなじかんに・・・ってまだ7時!?

「はーい」

「こんばんは〜」

玄関を開けるとそこにはあやがたっていた。
手には何かが入った袋を持っている

「もうご飯食べた?」

「まだだけど・・・」

「そっかーよかったーなんかうちのお母さんがこれ作りすぎたからゆうのところにもってけって」

タッパーに入った煮物を袋から出して差し出しながらいった。

「おぉっ!! サンキュー。俺疲れててちょうどカップ麺で済まそうと思ってたところだったんだ」

「どういたしまして。ねぇ、少しあがっていってもいい?」

「いーよー。さあどーぞどーぞ。」

「それじゃあおじゃましまーす」

多少テンションがあがってるが気にしないでおこう。
原因はこのタッパーに入った煮物のわけだが、あやのお母さんやあやが作る料理はかなりうまい。
なかでもこのあやのお母さんの煮物は最強クラスだ。
俺が作るのとは比べ物にならない。
居間に入りとりあえずソファーに座る。

「飯はもう食べてきたの?」

「うん。ねぇ、もしかして今帰ってきたばかり?」

「そうだけど。どうしたの?」

「いや、先に帰ってたのにおそいなぁ〜っておもって。」

ギクッ
俺としたことが・・・
ギクなんてベタな効果音を・・・
そうじゃなくて。
まさか変な集会にいった後に魔物と戦ってたなんていえるはずがない。

「えっと。少しりょうの家によってきたから・・・」

「そっか。それでさっき疲れてるっていってたんだ。ゴメンね。お邪魔しちゃって。」

ふぅーなんとかなった。

「いいよ気にしなくても」

「ありがと」

あやが微笑む。
こうやって改めて見るとあやはかなりかわいい部類に入る。
それが故におれの心配は絶えない。
俺とあやが付き合っていることは周りのみんなも知っているわけだが、それでもあやに告白してくる輩がいる。
その中でも性質が悪いのはあやにふられてキレて襲い掛かってくるやつだ。
もちろんあやに指一本触れる前にぼこぼこにしたが。
ほかにも怒りの矛先が俺に向けられることもしばしばあった。
素敵なお手紙が下駄箱に入っていたことが何回かある。
もちろん恋文なんてロマンチックなものではない。
果たし状だ。
まあそれに関してはこれでも喧嘩は強いほうなので問題はない。
喧嘩が強いのは能力者になる前からで、それは幼稚園の時からはるとじゃれ合っていたおかげなのだが。

「それにしても急にどうしたの?」

「へ?あっいや・・・なんか最近ゆうとふたりで話してないなーっておもって・・・」

あやが少し赤くなっていう。
ちょっとうれしい。
いや、訂正。
かなりうれしい。
それからしばらくいろんな話をして、時計が8時を回ったとこで俺があやを家まで送っていくことにした。

「ひさしぶりだね?ふたりでこうやって歩くの」

そういえばそうかもしれない。
高校に入ってからは親がいなくなったこともあっていろいろ忙しかったし。
あそこまで忙しくなったのは、あの親がいなくなる当日になって俺に一人暮らしをするように告げたことが一番の大きな原因だ。
あやの手を握りながらそんなことを考える。

「高校に入ってからは忙しかったからな」

「ゆうはさびしくないの?一人暮らし」

「なれればそうでもないよ」

「そうかなぁ〜?あたしだったら寂しいけどな。」

あやの家の前についた。

「それじゃあまたね。送ってくれてありがと。」

「どういたしまして」

そう言ってからあやをそっと抱きしめる。
あやの体の温もりと鼓動が直接伝わってきた。
そして、優しくあやの唇に自分の唇を重ねた。
二つの鼓動が徐々に早くなっていくのを感じる。
なんていうかいつものお決まりみたいなもんで・・・
なんて言い訳をしてみる。


「それじゃあ。」

「うん。またね。」

あやが手を振って見送ってくれる中、家へと通じる道を一人で歩きながら願う。
いまの日常がずっと続きますように・・・
大切な人たちを失うことが決してありませんように・・・








世界が大きく変わるかもしれない
原因はわかってる
そう、私
あの日、あの時の出来事を変えないと
取り返しのつかないことになる


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