第五話 でぇとと任務とアルバムと




「ん〜」

体を起こして時計をみる。

「ん?・・・なっ!?」

時計は昼の三時を指していた。

「だいぶ寝たな」

まぁ休みだしいっか。
それにしてもよくこんな時間まで寝れたな。
最近ずっとあの夢見てたからやっぱり疲れたのかな。
あの夢みるとなぜかあんまり寝た気がしないし・・・
それに昨日追い討ちみたいに結構な量の能力使ったからな。
枕元においた携帯を見るとメールが一件届いていた。

「メールにも気付かないなんて・・・」

一体どんだけ爆睡してたんだよ・・・と思いながらメールを開く。

「おっあやからだ。」

二度寝しなくてよかった。
受信時間午後一時。
・・・

「やばいもう二時間も経ってるじゃん」

急いでメールを読み返信をする。
メールの内容は、もともとあった用事がなくなって暇になったからどっかにいかないか、というものだった。
メールを送るとすぐに返信が来た。
とりあえず俺が急いであやの家までいくことになった。
あわてて出かける支度をして、家をでる。



「三時まで寝てるなんてすごいね〜愛夏みたい」

心なしかあやの声が冷たい。

「アハハハ。あいついつもそんな遅くまで寝てるんだ」

そのせいか、なんとなく笑い声が乾いたものになってしまう。

「そうだよ〜あたしが昼過ぎに愛夏の家に行くといつも寝てるもん」

「愛夏らしいな。それでどこいく?」

「ん〜本当は少し遠くにでも行こうかと思ったんだけど、誰かさんがずっと寝てたせいでそんなに遠くにもいけないしなぁ」

「ごめんなさい」

「まぁきにしないきにしない」

あやがからかうように笑いながらそういった。
ここはあやの家の玄関で、二人とももう出かける準備をしていてあとはどこに行くか決めるだけという状況だった。

「それじゃあ中央公園にでもいこうか」

「うん」

結局、あやの家から少し歩いたところにある中央公園へ行くことにした。
この公園はとてもきれいな大きい公園で中心には噴水がありそこから水が公園の中をいろいろな方向へと流れている。
そして、その中でもすこし大きめな川が公園を手前と奥で分断するように噴水から流れていて、その手前が子供たちの遊び場、奥がデートスポットとして有名 だった。

「やっぱりこの公園は涼しいね〜とりあえず座ろっか?」

あやがそういいながらベンチに腰をかけた。

「うん。なにか飲み物買ってこようか?」

「ありがと。それじゃあいつものお願い」

「オッケー」

そういって公園の中にいくつかある屋台へと向かう。
あやの言う「いつもの」とはその屋台の一つで売られているイチゴシェイクのことだ。
洒落たワゴンへと向かい一人でこの屋台をやっているマッチョのおじさんに注文を言う。

「イチゴシェイクとチョコシェイク1つ」

「はいよ、400円ね」

「はい」

「まいどあり。デートかい?がんばれよ」

「どーも」

威勢良くおじさんが言った。
ここのシェイクはなかなかおいしいと評判でここに来るといつも買っている。
噴水とこのシェイクとあのおじさんはこの公園の名物だ。

「おまたせ」

「ありがとう。やっぱりおいしいね」

あやがシェイクを飲みながら言う。

「なにしよっか?」

「俺はあやといる一緒なら何でもいいよ?」

なんて俺には到底似合わないセリフをいってみる。

「ゆうのばか・・・」

あやがそういってうつむく。
予想通り顔がみるみる真っ赤になっていく。
あまりのわかりやすさについ笑ってしまった。

「プッ。あや顔真っ赤。」

「むぅ〜ゆうからかったでしょ?」

「そんなことないって。本当に楽しいし。」

「そりゃあそんなこと言われれば誰でも赤くなるよおー」

「そういえば二人でここ来るの久しぶりだな」

「そーだね。前に来たのはまだ少し寒いころだったっけ?」

「うん。あれから親の転勤とかでいろいろと大変だったから。」

「その前はしょっちゅうここに来てたよね。そういえば一度、ゆうのお父さんにバイオリン弾いてもらったことあったよね。」

「あぁ。あれは正直恥ずかしかった。」

「でもすごくきれいだったよね。周りの人もみんな立ち止まって聞いてたもんね。さすが世界で有名なヴァイオリニストだよ。」

そう、俺の父親は有名なバイオリンの奏者で世界中あちこちで活動をしていた。
そのため、家に父親がいることは少なく、ほとんど母親との2人暮らしだった。
俺が高校に入ってからは、もう一人でも大丈夫だろうということで母親も父のサポートとして一緒に世界中をまわっている。

「またききたいなぁ。そういえばゆうのピアノもずっと聞いてないよね」

俺は、バイオリンを弾くことはできないが音楽をやっている父の影響でピアノをそれなりに弾くことができた。
しかし、あまり人前で弾くのは得意でなく、あくまで個人の趣味としてのピアノだ。

「ゆうのピアノも音がすごいきれいだよね。そうだ、後で聞かせてよ。ね?いいでしょ?」

「いいけど・・・最近弾いてないからどうなるかわかんないよ?」

「いいのいいの。楽しみだなー」

あやがそういいながらうれしそうに笑う。

「それにしてもいい天気だね〜」

そのまま空を見上げてあやが言った。

「ホント夏だな。今度二人で海にでもいこっか?」

「いいね〜夏休みに入ったらいこーね」

「うん。海に行ったら泳ぐのもいいけど花火とかするのもいいかもな」

「二人でいったら五人でもいきたいね」

「そうだな。今度はなしてみようか」

「うん。あっ飛行機」

突然あやが空を指差していった。

「飛行機だね。外国にもいってみたいな」

「お父さんの仕事で外国についていったりしたことないんだ?」

「うん。父さんいつも外国に行けば結構長い間帰って来れないから。」

「そっかぁ。ちょっと歩こう?」

「いいよ」

こんなかんじでそこらへんをブラブラしたり他愛もない話をしたりしてして1,2時間を過ごし、その後ピアノを弾くために公園を出て俺の家へと向かった。

「お邪魔しまーす。さっゆうっピアノピアノ」

「そんなに急かさなくても」

そういってあやに手を引かれながら奥にあるピアノのある部屋へと入る。
ピアノのある部屋は結構広めで防音設備も完璧に整っている。
俺のピアノや父さんのヴァイオリンの練習のための部屋で、部屋の壁一面を覆うようにおかれている巨大な本棚には大量の楽譜が収納されている。

「何の曲がいい?」

「うーん・・・一番最初のころに弾いてくれたたやつ」

「最初のころに?うーんと・・・もしかして俺が作ったやつ?」

「うん。」

前に作曲にはまったことがあり、そのときに作った結構自身のある曲だ。
完成までかなりの時間がかかったがその分完成度の高い曲になっている。
俺はピアノにすわり軽くリラックスしてから集中する。
そっと鍵盤に指を置き弾き始める。
イメージを集中して膨らませて表現する・・・
やさしく・・・
それでもはっきりとクリアに響かせて
少しずつ盛り上げていく
一気に音を広げる
強く、でもやさしくきれいに
そして、少しずつ静めていく・・・
だんだん小さくきえるように

「すごいきれいな曲だよね」

演奏し終わりあやが声をかける。

「この曲のタイトルってなんていうの?」

「そういえばタイトルは決めてないな」

「もったいないよ〜こんなにきれいなのに」

「うーん、そんなこといわれても・・・なんかいいのある?」

「うーん・・・」

二人で同じ格好をして考え込む。
ふと、ひらめいた。

「そうだ、『あや』は?」

「わたしの名前?恥ずかしいよ〜」

「いいじゃん。決定」

そういって楽譜の一番上に書きこむ。

「え〜恥ずかしいよ〜」

そういってあやは俺からペンを取り何かを書き足した。
おれが綾と書いたその横に結と書いていた

「なんて読むの?」

「あやゆう?」

「そのまんまじゃん」

「あっ。あやむすび?」

「あやむすび?そんな言葉あったっけ?」

「う・・・まぁこっちのほうがいいじゃん?はい、決定!タイトルは『あやむすび』!」

「まあ悪くはないかな」

「いいねぇ〜二人の曲だね」

綾がうれしそうに微笑みながら言う。
幸せいっぱいという感じだ。
そのあまりにかわいい笑顔に吸い込まれそうになる。

「あや・・・」

はじめは不思議そうな顔をしたがすぐに目を軽くつぶる。
あやの唇に自分のを重ね合わせる。



夜の七時ごろ。
あたりもだいぶ暗くなってきている。

「それじゃあね。送ってくれてありがとう。今日は楽しかったよ」

あやが微笑みながら言う。
ここはあやの家の前。

「俺も楽しかったよ。それじゃあまた明日。」

「うん。じゃあね」

俺が角を曲がり見えなくなるまであやはまた手を振り続けていた。
角を曲がったところで黒コートをまとう。

「それじゃあやりますか」

機関では人に危害を及ぼす魔物の駆除も行っている。
大量にいるわけでもなく、また駆除を行うのは人がすんでいるところだけで範囲もそんなに広くないため、一日に2〜3人で当番を決めている。
鳥を飛ばしゼロに連絡をするとすぐに返事が返ってきた。
帰ってきた鳥に触れると魔物がいる場所に送られる。



飛ばされた場所はどこか都会の裏通りのようなところだった。

「うわっくっせー」

あまりのにおいに鼻をつまもうとする。
仮面をつけているのでできないのだが・・・

「大量発生ですか・・・」

あたりには数十の人型の物体が立っている。
まるで油粘土のような体をしていてどろどろになっている。
ディルティーと呼ばれる魔物でゴミやガスなどのようは汚いものから発生する。

「はあ・・・」

イメージを膨らませそれに力を乗せる。
すると、手から水が噴出しディルティーたちを貫いていく。
汚いものならばきれいにすればいい、という単純な発想だ。
しかし、事実こいつらは水が苦手だ。
手に水の剣を作り出しあたりの敵を切りながら時々水を噴出する。
ディルティーはどんどんとどこかからか沸いてくる。
基本的にこの手の魔物は近くに強い能力者がいるとそこによってくるのだった。

「しっかしくっさいなー」

ほんとうに鼻が曲がりそうなにおいだ。

「これでも食らえ!」

時間稼ぎをしながら構築してた式を発動する。
俺を水の球が包み込み、そこから無数の水の柱が放射線に出る。
棘のついた玉のようなかんじ、ようはウニだ。

「駆除完了っと」

そういってまた鳥を飛ばし帰ってきた鳥に触れて家に帰る。

「今日は一箇所だけか・・・それにしてもくさかった」

こういうときに黒いコートは便利だ。
きっとあんなところで普通の服で戦ってたらにおいがついてもう着れなくなっていただろう。
風呂にお湯を入れて晩御飯を作る。
その後、ソファーでくつろいでテレビを見ながら作った晩御飯を食べた。
そして、風呂のお湯を見に行くため居間を出て風呂場へと向かい、そのまま風呂に入ることにした。



『続いてニュースです。今日世界の各地で謎の黒コートに黒仮面の集団が世界の各地で目撃されました。』
『なんかの宗教なんでしょうかね?』
『詳しいことはわかっていませんが特に誰かに危害を加えるというわけではなく問題はないようです。それでは次のニュース・・・』
ゆうはそのニュースを見てはいなかった。
他の機関のメンバーも誰もこのニュースを見てはいなかった。
このニュースは他の殺人事件や俳優の結婚などのニュースにかき消されてしまい他のニュース番組で取り上げられることもなかった。



「ふぅ。すっきりした」

部屋のベットにねっころがる。
ジャージにTシャツで歯も磨き、いつでも寝られる体勢だ。
いくら黒コートを着ていたとはいえあのにおいは耐え難いものだ。
風呂に入ってさっぱりとした。
ふと、なんとなくアルバムに手を伸ばしていた。
アルバムの適当な場所を開くと丁度そこは小学6年生のときの写真。

「あれからずいぶんたったな・・・」

6年生のとき俺は目覚めて、機関へと入った。


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