第六話 Old days -アルバム- (1)




「いいか。お前は俺と同じ種の人間だ。普通ではない。」

「それじゃあ何なの?」

「お前は能力者だ。」

「能力者?」

「今お前が見たような特異な力を使うものだ」

「力・・・」

それを聞いた瞬間朝からの違和感は溶けるようにしてなくなっていった。

「わたしといっしょにこないか?」

そういって黒コートの男は手を差し伸べてきた。

「うん。」

俺は迷うことなくスッとその手を取る。
これがこの世界への第一歩だった。
引き込まれるようにして周りの風景が変わっていく。



真っ黒な空間にぽつんと浮かぶ白い扉の前に立っていた。

「No.0」

そういうと扉が開く。
扉をくぐり、今度は対照的に真っ白な空間にある階段を上り一つの部屋に着いた。
その部屋には10人の黒コートが円く座っている。
俺を連れてきた男も一つ一番奥に空いていた席に座った。

「こちらへ」

一番奥に座った男が手を差し出し、丸く座っている黒コートたちの中心に立たせた。
目に映るものすべてが初めてだった。
白い扉、透明な階段、黒いコートのものたち・・・・

「ここは能力者の集まり『表の機関』。この機関のリーダー ゼロからお前へこの機関への所属を求める。」

「機関?」

「そうだ。お前は強い力をもっている。我々はお前が機関に入ることを強く望む。入る前の人間にあまり詳しいことはいえない。だが命にかかわることもある。 答えはすぐに出さなくてもよいが考えてもらいたい。」

機関・・・
不思議な力に関係がある集団・・・
俺が迷ったのは少しの間だけだった。
様々な新しいことへの好奇心に後押しされ簡単にOKの返事をした。

「・・・わかりました」

周りの黒コートたちがピクリと反応した。
よくわからないが俺の返答に動揺したようだった。

「本当にいいのだな?」

ゼロだけがまったく反応せずに平然と聞き返してきた。

「はい」

俺はこの集団にとても興味を抱いていた。
なぜか、俺もこの集団に入りたいと思った。

「それではこっちへ」

一番奥に座るゼロへと立つ。

「すべての力を持つものよ・・・すべてを持っていながら虚ろなものよ・・・」

そういいながら男は手に持った黒い何かを俺に突き出した。
俺が恐る恐るそれに触れた瞬間黒いそれは溶けるようにして消えて俺に取り込まれていった。

「お前の機関での名前はvio、ヴィオとする。終わりなき虚無のものよ。機関に慣れるまでの間の面倒はNo.4アズテルに見てもらう。アズテル、ウィスト はもう一人でも問題ないな?」

「あぁだいじょうぶだろう」

堅い感じではないが強くしっかりした声が言った。

「おれもやっと独り立ちか」

それに対して軽い感じの声が、やっとかという感じにつぶやいた。

「まだまだ甘いところが多いけどな」

「うっせーアズテル。そこはこれから直していくんだよ」

アズテルという男にからかうようにいわれてウィストと呼ばれた男がふてくされるように言った。

「それではアズテル。これからはウィストに変わりヴィオの面倒を頼む。」

「わかりました。」

「それでは以上で解散とする。」

黒コートの者たちが消えていった。
一人残った黒コートの男がこちらに近づいてきて、フードを取り仮面を外しいった。

「それでは改めて・・・私の名前はアズテル。使う能力は光と闇だ。これから君の面倒を見ていく。とりあえず能力や機関、この世界について説明していこ う・・・・・」


「・・・・・ということだ理解できたか?」

「はい、一応。」

「さすがに若いうちは飲み込みがいいのぉ。わしはNo.3レコルドじゃ。よろしくの。」

アズテルのものとは違う、しわがれた声が突然部屋に響く。

「どうしたんだレコルド?」

「いやの。新人が気になっての。なんとなくじゃがこの子の将来が楽しみだの。」

声のしたほうを振り向くととてもやさしそうなおじいさんが立っていた。
長い白髪で黄色い目をしている。
日本人じゃないのだろうか?

「レコルドさんは日本人じゃないんですか?」

「そうじゃな。わしはロシア生まれのロシア育ちじゃ。」

「レコルドはとにかくすごいぞ。だいたいの言語を扱えるし知識量も俺とは比にならない。」

「お主もなかなかじゃぞ?術式に関してはおぬしが上じゃろ?」

「たしかにそうだが、アカシックレコードと契約を交わせた能力者にはかなわん。」

じゅつしき?アカシックレコード?
わからない単語が出てくる。
それについて聞こうとすると。

「師匠も来てましたか」

今度は静かでガラスのように透き通った声が響く。

「もうその呼び方はやめんか。ところでワイズも気になったのか?この少年が。」

「そうですね。ゼロがじきじきに呼びにいくほどの少年ですしね。私の名前はワイズ、No.7です。よろしくお願いします。」

知的な青年といったかんじで銀髪に青い目をしている。

「あぁ。私はルーマニア人なんですよ。育ちは日本ですけどね。だから日本語もぺらぺらなんですよ。」

もしかしたらこの人はとても頭がいいのかもしれない。
俺の表情を見ただけで疑問を読み取った。

「さすがに師匠みたいにほとんどの言語を扱ったりはできませんからね。そういえばギリシャ語とヘブライ語がまだなんでしたっけ?」

「そうじゃな。他にもあった気がするが・・・さすがにこの年になると新しいことを覚えるのは厳しいのう。」

「ギリシャ語とヘブライ語なら俺ができるな。はっきりとした理由は忘れたが昔興味があって覚えた。」

アズテルがその理由を思い出そうとしているのか、顔をしかめて何か考えながらいった。

「それで、ヴィオはどんな感じなのでしょうか?」

「まだなんとも言えんが、覚えはいい。若いというのは素晴らしいな。」

アズテルが感心するように言った。

「あなたもまだまだ若いですよ。しかし、驚きましたね。まさかあんなに早く返事を出せるとは思いませんでしたよ。」

「あのウィストでも少し迷ったのにな。」

軽く小ばかにするようにアズテルが言う。
たしか、アズテルが前に面倒を見ていた人だっただろうか。
確かに、さっきの会話を聞いた感じでは軽いイメージで結構すぐにOKの返事をしそうな雰囲気だった。

「お主ら二人もだいぶ早いほうじゃったがの。」

笑いながらレコルドが言った。

「さて、わしはそろそろ戻るかの。期待してるぞ、若者よ。」

「それでは私も。かんばってくださいね。それでは。」

そういって二人はすっと消えていった。

「よし、とりあえず今日はここまでにするか。次は能力の使い方を教えていく。明日は空いているか?」

「はい。特に用事は。」

「そうか。なら明日の朝の10時ごろに迎えにいく。そうだな・・・お前の家の近くに小さな廃れた感じの古い公園があるだろ?そこで待っていろ。」

「10時ですか。わかりました。」

「それではお前を家まで送っていく。」

急に視界が暗くなり次の瞬間には家の玄関に立っていた。

「それでは。今日は疲れただろうからゆっくり休め。」

そういってアズテルは消えた。


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