第三十話 残響と崩壊
「ゆう!!」
「あや・・・」
俺は仮面をはずしてあやの名前を呼んだ。
涙を目に浮かべたあやがこちらに駆け寄ってきて力強く抱きついた。
強く抱き返したいという気持ちだったが腕はだらしなくダラリと垂れ、体に力が入らない。
「まるでドラマの感動の再会みたいだよな。」
「やっぱり、あの二人だと絵になるねぇ」
ハルと愛夏がそれぞれ同じ格好で腕を組みながら頷いている。
その二人も疲れきっているからなのか暗い表情だった。
「ゆう・・・怖かったよ・・・刺されて急に真っ暗になって・・・」
形だけでもなんとか抱いているように見える腕の中であやは小さく震えていた。
その震える声であの後何があったのかを話し始める。
「ずっとの白い十字架に磔にされてて・・・心臓のところは銃で撃ち抜かれてて・・・」
「白い十字架?銃?」
「うん・・・不思議な形の模様で体を縛り付けられて・・・周りで白い羽がフワフワ舞ってた・・・月の光も射してて普通に見たらものすごいきれいな光景だっ
たのかもしれないけど、それでもものすごく怖かった・・・」
「大丈夫だから・・・もう大丈夫だから。」
震えながらそう漏らすあやをやさしく慰めるように言う。
しかし、頭の中ではいくつか引っかかる部分があった。
今あやが言ったものの中で求める者が使った力と関係がありそうなものは何一つない。
「俺のとは違うな。なんか俺は透明な結晶の中に閉じ込められて周りを光るガラスの破片?破片にしては大きかったけど、まぁそんな感じのに囲まれてた。」
「へぇ、あたしは鎖で縛られてたね。たぶん鳥かごの中見たいな場所で。その鳥かごも何かにつるされてたっけ。よくは見えなかったけど。」
結晶にガラス、鎖に鳥かご?
まったく関連性がないな。
これは一体どういうことなんだ。
一生懸命疲れきった頭を働かせていると愛夏が呆れたように言った。
「ところであんた達はいつまでそうしてるつもり?なに二人して真剣な顔で考えながら抱き合ってるのよ。」
正直すっかりと忘れていた。
それはあやも同じだったようだ。
思い出したように顔を合わせると、二人が見ているこの状況で思ったより顔が近かったせいか急に恥ずかしくなって距離をとる。
「べ、別に私がずっと抱きしめててほしいって言ったわけじゃないいんだから!」
「いやいや。なんかキャラ間違ってるよあや。それはどちらかというとあやより・・・」
そう言って愛夏のほうに目をやると、なによ?と言わんばかりにきつく睨み返された。
「ところでゆう、あいつはどこいったんだ?」
「あいつは倒したよ。もう大丈夫。それより元いた場所にもどるから皆こっちに。さっきいたところと結構近いみたいだから俺でも何とか移動できる
と思う。」
式を発動する。
周りの光景が変わる。
その光景に息を呑んだ。
同じ場所にもどったはずだった。
しかし、そこはあまりに荒れ果てていた。
柱は倒れ石畳は抉れところどころに巨大な穴も開いている。
「おせぇーよてめぇー」
いつもより弱いウィストの罵声が響く。
その場に居た全員はラズを除いて地面に倒れたり座ったりしている。
「あの子供があの影を大量に出していったんです。前のより強力でした。」
「そうか・・・あいつ・・・」
この神殿の有様とみんなの様子を見ると再び怒りがこみ上げてきたが、我に返ってそれを押さえ込む。
そこで今まで体を支えていた足がふらついた。
すぐそばで倒れていた柱の残骸まで何とか近づき、寄りかかる。
もう立っているのも限界だった。
「エアル。薬を頼んでもいいか?あいつを倒すのとここまで戻ってくるのでほとんど能力を使い切ったみたいだ。」
「わかりました。外傷はほとんどないようですね。それではこれを。」
そういって青く小さなガラス玉のようなものを二、三粒手渡した。
「噛んで・・・」
ガリッ
「・・・はダメですからね。」
今の俺の顔はおそらくかなり歪んでいるだろう。
ものすごく酸っぱく、さらに苦い。
自分でも涙目になっているのがわかるし、遠くのほうではウィストがゲラゲラと笑っているのが聞こえた。
それをみてエアルは落ち着いた様子で木のコップを錬成し、それに水を満たしてこちらに差し出してくる。
「だから噛んではだめだと・・・それものすごく酸っぱいんですよね。」
せめて口に入れる前にいって欲しかった。
それに自分でも噛んだことあるのか・・・
「ん?」
ワイズが突然顔をしかめる。
何かと思い神経と研ぎ澄ますと空気が文字通りピンと張り詰めているような違和感がした。
その違和感はかすかなものからだんだんとはっきりとしたものになっていく。
他の皆も気付いたようだ。
「この感覚、以前どこかで・・・」
レウルが記憶を手繰り寄せるように言う。
「これは空間の崩壊じゃ!!!」
レコルドは慌てた様子そういいながら懐に手を入れ、何かをごそごそと探している。
そしてその単語を聞いたワイズとレウル、エアルの顔から血の気が引く。
「そんな・・・またあの時の惨劇を繰り返されるなんて。何とかしないと。」
皆が危険を感じ、外していた仮面をつけて構える。
俺達にとっては仮面をつける=戦闘体制という感覚だった。
確実によくないことが迫ってきているということが体全身で感じられる。
「ダメです。もうすぐ来ます!レコルド!」
ワイズは何かをしようとしているレコルドを急かすように振り返った瞬間。
レコルドは銀色の何かを懐から見つけ出しカチンと鳴らし、それと同時に今までの時間をかけて限界までピンと張られた糸が切れたかのような感覚がした。
あたりの空間に透明な歪みの線がヒビのように走るその一瞬前に俺たちそれぞれの体を同じように透明な膜が囲む。
そして空間は砕け散った。
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