第九話 夢と夜空と平穏





またおれは何もない空間にいた。
まえの夢や機関への扉がある場所と似ているようだが少し違う。
遥か上と下の方には光の海が広がっている。
そして光の海の間の俺が浮かんでいるその周りにはまるで星のような何かがたくさん広がっている。
一番近いものでもかなりの距離がありそうだ。

ここはどこだろう・・・
夢?
でもなんか違う

周りを良く見てみると、星のようなものだけでなくところどころに地面があった。
まるで島のように浮いていて大きいものから小さいものまでさまざまある。
一番近くの上の方にある地面に近づいてみる。
体は意識した方向に自由に勝手に進んでいった。
その地面は丁度俺と逆向きになって浮いている。
意識すると体はイメージどおりに回り静かに着地する。
さっきまではただ浮いてるだけという感じだったが、地面に足をつけた瞬間に重力がもどってきた。
着地したところはちょうど部屋ひとつ分くらいの地面だった。
地面は少し白っぽいい灰色。
何かが落ちている。
俺はそれを拾い上げ、砂埃をはらった。

!?

これはあのときの・・・
それは機関のメンバーがつける仮面の破片だった。

「何でこれがこんな場所に?」

機関の服は黒の衣と呼ばれていて、黒の石という物質に自分の能力を加えコートと仮面の形を形成させたものだ。
黒の石は一度能力を加えられるとその能力と同化してそのまま能力者の一部となる。
同化した後はイメージをして力を使うだけで最初に作った形を再び形成する。
石が何かの形を形成しているときは再び力を加えてもとの力の一部に戻すまで普通に存在する物質と同じ状態で存在し続ける。
だから仮面の欠片も力を加えなければずっとそのままになる。
これは確かにあのときのものだ。
斜めにまっすぐに切れている。
仮面の残りの半分もあるのではと思い周りを見渡すがそれらしきものは見当たらない。
ここにはないのか。
俺はその仮面の欠片を見つけた瞬間に確信した。
ここは空間と空間の狭間だ。
たぶん俺が今立っているのは欠片の空間のカスのようなものだ。
前に俺が"あれ"と戦った欠片の空間の残り滓・・・
おそらくあの空間自体はとっくに崩壊し砕け散り俺がいるのはその砕け散った一部なのだろう。
きっとどこかほかの陸地に仮面の残りもあるのだろう。
しかし何で俺がこんなところに?
そう考えた瞬間に急にめまいのような感覚に襲われる。
すべてが遠くなっていく。
まるで闇の中に解けていくようだ。
周りが。
そして自分が。




「ゆう。ほら、おきろ」

「りょう?」

頭を上げると顔をを伏せて寝ているハルの頭が目に入りそしてその後ろに帰ってきたあやと愛夏がみえる。
二人の手にはまた新しい袋が握られていた。
夢?だったのか・・・
時計はもう九時を指している。

「よーし起きたね。後はこいつだけか。」

愛夏はそういいながら手に持った財布等そのたもろもろがはいったバックをハルの頭上に設置し・・・

「ゴスッ」

落とした。
何が入っているのかは知らないがかなりいい音がする。

「・・・なに?へ?どしたのみんな?」

寝ぼけてるせいか頭をぶたれたせいかはわからないが状況を飲み込めていない様子だった。

「ほら行くぞハル」

りょうが立ち上がる。

「帰るぞ」

俺も買ったものに埋もれている鞄を引っこ抜きながらいう。
ハルはただ呆然としながら周りを眺める。
まさか、愛夏の一撃が強すぎて頭がおかしくなったんじゃ・・・
いや、もとからか。

「はやくしないとおいてくよー」

さきに出口へと向かっていた愛夏が遠くからいう。

「ほらはやくはやく〜」

それに小走りでついていきながらあやもいう。

「はい?・・・・あっバスッ!!」

ようやくハルのスイッチが入った。

「まってよ〜」

ハルがかばんを持ってばたばたと走ってくる。
かと思った。
ハルが席を立とうとするがまわりにある戦利品が邪魔になってうまく立てない。
その荷物を見てからハルは愛夏を何かを問うような目で見る。

(これは?)

それに対して愛夏がすがすがしいほどの笑顔をつくる。

(コロス)

「ゆう、今あんた何考えてた?」

少しはなれたところにいる愛夏に笑顔のまま鋭く睨まれる。
訂正。

(荷物よろしくね はーと)

まだにらんでる。
もう一度訂正。

(荷物よろしくね)

細かいな・・・
愛夏はやっとその鋭いまなざしを解除し再びハルを見る。
その意図を感じ取ったハルはドンとテーブルに両手をつく。

(おわった・・・)

あやと愛夏はさっき買ってきた分、俺とりょうはそれぞれにこずつもっている。
ハルのまわりには5,6個の紙袋がある。

(すまないハル。こんな重い運命俺と遼には負いきれない)



朝のバス停に到着した。
バスが通り過ぎた後は辺りは静寂な夜につつまれていた。
バス停のある学校前の周辺は住宅地が広がっていて夜にもなると人通りもほとんどなく、明かりも等間隔で設置してある街灯と家から漏れてくる程度だ。
上を見上げれば星がいくつかまたたいている。

「あしたはきっと晴れるよね」

あやがとなりで空を見上げながら言う。

「こんなに晴れてるもんな、きっと晴れるよ。」

俺も空を見上げながら返す。

「ホント楽しみだな、明日のキャンプ」

「はしゃぎすぎて怪我するなよ」

りょうがハルに注意する。

「しないって〜」

「あんたは前科もちだからねー」

そう。愛夏の言うとおりハルには前科がある。
小学校のときの林間学校で一人で勝手に走り回りふざけていたら木の根っこにつまづき、まるでマンガのような素晴らしい大転倒を見せてくれた。
運よく足をひねっただけですんだが、不幸なことに林間学校の間は先生たちと一緒に過ごすという苦い経験をハルはしている。
そんなこともいいけどハルの荷物を持っている腕が小刻みにプルプル震えている。

「あの時はまだ子供だったんだよ」

当の本人はそこまで気にしていないようだ。
さすが運動馬鹿なだけはある。

「ハルはあのころもいまも大して差がないけどな」

「むっ 俺も少しは成長したんだから」

そんなハルに俺が言うとすねた顔をしてそっぽをむいた。
そのハルの様子を見てみんなが笑う。
そして、愛夏が突然こちらに視線を向けていった。

「しっかし、あんたたちもほんとに仲いいわよね。今もしっかり手つないじゃって」

「それはその、だって・・・」

あやがあわてて弁解しようとする。
暗くても真っ赤になってるのがわかるぐらいだ。

「ヒューラブラブだね〜そんなにべとべとしちゃって」

ハルが冷やかす。
さて、どうやって対処しようか?

「何か問題でもあるのかね?少年ハルよ」

「いえ。なんでもございません」

「そうか。ならよい。」

俺とハルのふざけた会話をスルーしてりょうがいう。

「ホントにそうやって年中べとべとしててよく飽きないな」

ここでお前が突っ込んでくるのか。
なら、ここはあえて一か八か切り返しでいくか。

「いいじゃん?だってあやのこと大好きなんだし」

「なっ!?」

「ゆう?」

いきなりの言葉にハルは驚きあやがおどおどする。

「こりゃあまた・・・ゆう、あんたそんな発言されたらこっちもなんて言ったらいいかわかんなくなるでしょーが」

「そういったことは二人っきりのときに言え」

「悪い悪い。どんなリアクションするかな〜っておもってつい。」

愛夏とりょうに攻められて笑いながら言う。

「これはこのままゴールインかな?」

「もう、ハル」

「まぁまぁあや。結婚式にはたっぷりご馳走食べさせてもらうからね。」

「楽しみだな」

「愛夏ぁー、りょうー」

「いいじゃんあや」

「そりゃあ・・・」

そこであやがお返しとばかりにハルに爆弾を投げ込んだ。

「ところでハルって好きな人いるの?」

「なっ・・・」

「あや、あんたもほんとに唐突だね。で、どうなの?」

「その・・・」

みんながハルに視線を向ける。

「だれだれ〜?」

「うぅっ。誰でもいいだろ〜?」

愛夏に迫られてちっちゃくなったハルを見てみんなが笑う。
そうやって笑いながら歩いていると十字路に着いた。

「それじゃ」

「また明日ね」

「おう」

手を振りながら言ってきたふたりに返す。

「遅刻すんなよ愛夏ー。明日8時だからな」

「わかってますよーだ。あんたこそ怪我して行けなくなったりするなよー」

あやと愛夏がみぎに曲がっていく。
ハルは左にまがってすぐの家に帰っていった。

「それじゃあいくか」

りょうがいった。
おれとりょうの家はまっすぐ行った先にある。

「ああ」

二人は無言のまま歩いていく。


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